主に半兵衛受けのお話が多いです。
渇き 1
現パロ、政半
毎朝六時三十分になると携帯のアラームが鳴り響く。低血圧のためか寝起きは良い方ではないが社会人になってからは自然と体が起きるようになった。欠伸をしながらベッドから下り、そのまままっすぐ洗面台へ行き顔を洗う。朝食は食パン一枚かもしくは摂らないのどちらかで、朝一に飲んでいたコーヒーは医師からの勧めで少し前に購入した浄水器の水になった。なんとなく味気ないが体に良いと言われればそんな気にもなってくる。息苦しいスーツに身を包み、持ち慣れた鞄を手にいつも通り半兵衛は家を出た。
いつも通りに駅へと歩き、改札を通って電車に乗る。通勤ラッシュのためかやはり人は多い。サラリーマンや学生、夜勤明けで朝帰りの人間など様々だ。最初こそは人混みに体調を崩したりもしたが、それにも随分前に慣れた。いつも通りの景色が窓の外を流れておよそ十五分、降りる駅に着きまた改札を通る。駅から徒歩十分もかからない所に半兵衛の勤める会社がある。周りのビルとは違って壁一面黒いタイルが貼られ、ガラスはマジックミラーになっていて何処が窓なのかわからない黒一色のビル。唯一入り口の自動ドアのみが透明で中の様子を見ることができる。
受付嬢達への挨拶もほどほどに、まっすぐエレベーターで自分の仕事場へ向かう。半兵衛が仕事場へ着くと既に数人部下達が出勤しておりおはようございます竹中さん、と声を掛けてくる。それに対しておはよう、といつも通り笑顔を返し半兵衛もデスクへと腰掛けた。徐々に他の社員達も出勤し、九時には全員が揃いデスクの前に張り付く。そしてそこから日が沈みちょうど帰宅ラッシュが始まる頃まで社内は電話やパソコンの音と、仕事の話で埋め尽くされるのだった。それがいつも通りの光景。
時折そのいつも通りが特別に変わる。一本の電話が着信音を立てると即座に女性の社員がそれをとる。彼女ほんの少し喋った後に保留ボタンを押し半兵衛へと声を掛けた。
「竹中さん、社長からです」
「あぁ、ありがとう」
半兵衛は礼を言い微笑むと、自分のデスクの上の電話を取り口を開く。
「お疲れ様です、竹中です」
時計の針は終業時間を通り過ぎ、いつの間にか仕事場にいるのは自分一人になっていた。机に散らかる資料をトントンと叩いて整え鞄に入れる。戸締りは警備員に任せているため自分の荷物を持つと仕事場の電気だけを消し、半兵衛は会社を後にした。普段ならもっと早い時間に自宅へと向かっているが今日は違う。駅とは違う方向へ足を進めながら携帯で今会社を出ました、とだけ打って送信しておいた。
人で賑わう街の中をしばらく歩き、見えてきたのはとあるレストラン。もう何度が訪れているためか扉を開けるとすぐにボーイがお待ちしておりました、と一礼をして案内してくれた。平日の夜は混雑もしておらず空席も幾つか見られる店内、その一番奥の席に彼はいた。
「よぉ半兵衛、お疲れさん」
「お疲れ様です、社長」
先程のメールの受信者であり、半兵衛の勤める会社の社長であるその人物。その名は伊達政宗、若くして社長の座を譲られ、ここ数年で業界に名を馳せてきた凄腕の人物。片目は眼帯に隠され、もう一つの目は龍のような瞳でその風貌が印象的で更に有名だった。
「Stop…半兵衛、プライベートで社長はやめろっつてんだろ」
「そうでしたね、すみません。政宗君」
「敬語もだ」
「はいはい分かったよ」
困ったようにくすくす笑いながら言葉を崩すと政宗も満足したように笑った。政宗は半兵衛の上司であるが半兵衛より年下のため、会社以外ではこうして政宗君、と呼んでいる。もちろんそれは政宗自身も許可しそう望んでいることだ。半兵衛が上着を預け席に着くとボーイが食事やワインを運び始めた。二人は仕事の話や世間話、時折冗談を交えながら料理を口にする。体に染み付いているかのような優雅なテーブルマナーにレストランの従業員達も思わず見惚れてしまう。それが容姿端麗な二人が並んでこなしているのだから尚のことだ。
「それで、愛殿はお元気かい?ご懐妊なさったと聞いているけど」
「…知ってんのか」
「ウチの女子達は噂好きだからね」
「あいつの話は、今はしたくねぇ」
「…そうかい」
愛殿、という単語を聞いた途端政宗の表情が曇る。愛は政宗の妻、社長に就任した翌年に二人は結婚をした。夫婦仲は良好のようで、社内でも羨ましがられる噂の仲良し夫婦だ。だが、政宗は一つだけ愛に隠している秘密があった。
「半兵衛」
「なんだい?」
「今晩部屋をとってある、来れるか?」
「断るつもりなら最初からここには来ないよ」
「Ha!それもそうだな」
半兵衛が快く承諾すると政宗は子供のように無邪気な笑顔を浮かべた。
「はっ……んんっ……」
政宗の車で予約してあるホテルまで向かい、一番上の階の部屋に入るとシャワーも浴びずに政宗は早急に半兵衛をベッドへと押し倒した。せめて汗だけでも、と懇願したが聞く耳持たれずそのまま服を乱しベッドの中で二人は絡み合った。
「キツいか?」
「ううん……へい、き……」
「OK、動くぞ」
「あっ……は、んっ」
部屋の照明は暗く落としているが、その中でも半兵衛の体は白く艶かしく輝いている。ベッドに顔と両手そして膝をつき、尻だけを高く上げた姿は、普段仕事場で凛と背筋を伸ばし座っている姿からは想像もつかないほどいやらしかった。その腰を両手で掴み自身の肉棒を突き立てる政宗は、龍の瞳をギラギラと輝かせながらその体を味わっている。
「っあ……ひっあぁ……」
「はっ……気持ちいいぜ、半兵衛」
背中にちゅ、と軽く唇を落とすとそれだけで白い体がびくりと跳ねる。その仕草にくすりと笑うと、突き立てている肉棒を始めはゆっくりと、そして徐々に律動を早めて半兵衛の中を責め立てていった。
「あっあぁっ……そ、こ……いいっ……」
「あぁ、ここだろ」
「ひぁっ……んんっ……あっ……!」
突き上げる度に体をびくつかせるその箇所を執拗に刺激する。体を支える膝がぶるぶると震え限界が近いと訴えているのが容易に分かった。政宗は白い体の中心で頭を持ち上げ先端からぬめりを垂らしている半兵衛の魔羅を片手で握り、そのまま荒々しく上下に擦りあげた。
「い、あぁあっ…あっひぃっ…そん、な…んぁあ…!」
「っ…は…ほら半兵衛、いつでもいいぞ…っ」
「んあっ…も、無理っ…いッ…あぁぁああッ」
髪の毛を振り乱し、背中を仰け反らせて半兵衛は達した。その瞬間、中のうねりに刺激させた政宗もまた欲を半兵衛の中へと注ぎ込んだ。ぬち、と音を立てて魔羅を引き抜くと白い体はゆっくりとベッドへ沈んだ。その隣りに政宗も倒れこみ、後ろから半兵衛をぎゅっと抱き締める。しばらくの間、会話のないまま荒い呼吸の音だけが部屋に響いた。
これが政宗の「秘密」であった。この関係が始まったのは先代社長の元で直々に経営についての教えを受けていた頃。当時新卒で入社してきた半兵衛に一目で心を奪われた。初めはその容姿に惹かれたのだが、共に仕事をこなしていく内に半兵衛の才能にも惹かれていった。そしてある日、ついに政宗は半兵衛を押し倒してしまった。若さ故に衝動が抑えられなかったのだろうが、不思議と半兵衛は抵抗せずそのまま政宗を受け入れた。それからこの「恋人」とも言い難い複雑な関係は始まったのだ。だが、それから間もなく政宗は社長に就任し、その翌年に先代社長からの勧めで結婚をした。この時から半兵衛は政宗の「愛人」という立場になり、政宗の今後のことを気遣い自ら身を引こうとした。だがその手を政宗がどうしても離さなかった。社内でこの関係を知っている者は本人達を除いては政宗の側近の片倉小十郎のみである。
「半兵衛……」
息が整い体の熱も治まってきた頃に、政宗が呟く。なんだい、と聞き返せば政宗は白い項に顔を埋め、低く優しい声で囁く。
「好きだ」
その一言に半兵衛は心臓がドクリと跳ねたような気がした。
「……ありがとう」
半兵衛は後ろから回された政宗の手に自分の手を重ね呟いた。お前は、と聞かない政宗の優しさに甘えながら半兵衛は瞼を閉じた。
「あー!やっべぇ全然終わんねぇ!」
終業時間まであと三十分を切ったあたりで部下の一人が絶望の悲鳴を上げた。半兵衛が何気なく近づきパソコンを覗き込む。そしてすぐにこの部下ならあと二時間程はかかりそうな内容だと理解した。頭を抱える部下の肩に手を置くと半兵衛は優しく微笑んだ。
「あとは僕がやっておくよ、だから君はもう帰りたまえ」
「えッ!竹中さん本当ですか……?いやいやでもそんなの悪いですよ!」
「君、今日は夜から彼女さんとの約束があるんだろう?それに、君がやるより僕がやった方が早いし確実だと思うけど」
照れ隠しと不甲斐なさにその部下は頭を掻いた。
「えへへ、じゃあ申し訳ありませんがお言葉に甘えます」
そう言ってせっせと帰る支度を済ませ、扉の前で嬉々として声を上げた。
「竹中さんありがとうございます!このお礼は必ずさせていただきますねっ!」
深々と礼をして彼はエレベーターへと駆けて行く。くすくすと笑いながら半兵衛は再びデスクへと目を向けた。政宗の会社の人間は人情に厚く感情が豊かで人懐っこい人間が多い。そんな彼らも決して嫌いではなくむしろ毎日微笑ましく見守っている半兵衛は、よくこうして部下の仕事もプライベートもフォローしている。そのせいか多くの部下や他部署の人間からも慕われていた。
「さて、どこから手直ししてあげようかな」
先程の部下のパソコンを見ながら半兵衛が困ったように笑う。まだ不慣れなせいか未熟な内容の文章とデータがパソコンに並んでいる。半兵衛はぐっと背伸びをし、改めて姿勢を正すと画面に向き合いキーボードを叩き始めた。時折、要所要所のメモを取る。内容を訂正した箇所を明日あの部下に伝えるための準備だった。
およそ一時間後、終業時間を僅かに過ぎてしまったがデータは完成した。ふぅ、と溜め息をつき携帯に目をやる。特に電話もメールも入っていないことを確認すると早々に帰る支度をし、会社を後にした。
自宅の最寄駅で電車を降り、そのまま寄り道せずに半兵衛は帰路へつく。時間も遅いせいが人通りはなく半兵衛の歩く足音だけが闇に吸い込まれていった。するとその中に、もう1つ音が近づいて来た。
ブロロロロ……地を這うような重低音、それは後ろから迫ってきた。車か、と思った半兵衛は特に気にも止めず足を進める。その音が徐々に近付き半兵衛を追い越すと思われた途端、キッとブレーキをかけて止まった。何事かと思わず足を止めると、突然後部座席のドアが開き一人の男が現れた。そして素早くハンカチのようなもので半兵衛の口を塞ぐとそのまま車内へと連れ込む。
まずい、そう思ったところで半兵衛の意識は途絶えた。
遠くから話し声が聞こえ、半兵衛の意識が徐々に覚醒し始めた。その声からすると女が1人と男が、何人かいるようだ。薄っすらと目を開けると声の通り女が1人と見知らぬ男達が数人、横たわる半兵衛を囲うように立っていた。腕は後ろに縛られているようで動かすことができない。それでも一切焦ることはなく半兵衛は目だけで辺りを見回して状況を理解しようとした。するとクスリ、と女が小さく笑った。
「流石は知らぬ顔の半兵衛さん、こんな時でも驚く顔一つ見せずとても立派ですね」
状況に似合わず穏やかで上品な口調で女は言った。そして半兵衛の前でしゃがんだ時、紫の瞳が一瞬ハッと見開いた。そこにいたのは政宗の妻「愛」であった。
「愛殿、何故貴方がここに」
彼女を見るのは政宗の部下として二人の結婚式に出席したあの日以来だった。黒くて長い髪を巻き上げ、銀色の髪飾りを付けて純白のウェディングドレスに身を包んで微笑んでいた彼女はそれはそれは美しい女性であった。政宗の妻に相応しい、と素直に思った。その彼女が何故、今自分を囲う輪に混ざっているのだろうか。
「何故か本当に分かりません?」
「……えぇ、全く」
「嘘をつかないでください。半兵衛さん、貴方が政宗様ととても親しい仲だということは私も知っております」
「……そうでしたか、つまり」
嫉妬ということですね、と半兵衛はあっさり愛人であることを認めた。ところが愛は怒ることもなくただただ穏やかに笑っているままだった。
「そうですね、確かに嫉妬もしていました。貴方のような美しい方に私が叶うわけありません」
「そのようなことは」
「でも、決してそれだけではありません」
スッと立ち上がると半兵衛に背を向けて愛は続けた。
「政宗様はこの会社を統べるただ一人のお方、その跡を継げるのはその方の血を継ぐ者のみです。ですが影では後継者は半兵衛さんではないかという噂も流れています」
「それは、あくまで噂に過ぎません……僕にそんな気は」
「貴方の気持ちなどどうでも良いのです。社員達がそのような噂をし、万が一、二つの派閥などできてしまえば政宗様が、伊達家が築いたこの会社が揺らいでしまいます。誰もが後継者はこの子だと言う環境を作らねばなりません……」
そう言いながら愛はとても優しく慈しむように自分の下腹部を撫でた。そこで半兵衛も勘付いた。そして振り返った愛はその動作と全く逆の、冷たく刺すような瞳で半兵衛を見下ろした。
「要するに、貴方が邪魔なのです」
やはり、と半兵衛は呟く。自分が後継者など百パーセントあり得ない、とは言い切れない状況は確かにある。半兵衛自身にその気はなくとも周りがどう考えるか。愛はそこが心配でならないのであろう。愛した人との間にできた子供が、何の不安もなく将来を歩んでいけるのかどうか。
「では……僕は会社を辞めましょう。政宗君にももう会いません、それでよろしいのでしょう?」
実際、会社を辞めるとまでは考えたことはなかったがいつかは政宗との関係を終わらせるべきだと考えていた。未練など無い、いつか必ず終わることだと分かっていたのだから。半兵衛の提案に愛は口元にだけ笑みを浮かべて答えた。
「いいえ、それだけではなりません」
「……というと」
「政宗様が貴方の手をそうやすやすと離すとは到底思えません。ですから、貴方には消えてもらいます。私も政宗様も知らない、どこか遠い遠い所へ……」
スッと愛が左手をあげると、周りに立っていた男達は半兵衛の両脇に腕を入れ無理矢理その場に立たせた。そして愛は両手を半兵衛の頬に添えるとグッと顔を近付けて囁いた。
「男に抱かれるのが好きなのでしょう?でしたら、好きなだけ抱かれていらっしゃい」
どういうことだ、と口を開こうとした瞬間、突然半兵衛の視界は暗闇に包まれた。一人の男が目隠しをしたのだ。そのまま足を掬われ、再び床に倒れこむ。幾つかの手が服を掴み上げる感覚と、さほど遠くない場所でクスクスと笑う愛の声にこれから行われることが容易く予想できた。けれど不思議と嫌悪感などはなく、仕方ないと諦めたように半兵衛は体の力を抜いた。
To be continued...
えげつなく長くなってしまった上に続きます。
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