主に半兵衛受けのお話が多いです。

渇き 2


渇き1の続き、モブ半、信半

昼間は眠る街も日が暮れ月が昇ればキラキラとネオンが輝き、それこそまるで昼間のように明るく賑わう。だがそこを歩く人は昼間のものとは違い人の欲求を満たすため、或いはそれを与えるために集まってくる。男は女を選び、女は男の欲を満たす、まるで吉原のようなそんな商売をする店が行く道に幾つも並んでいた。その中の一つである『平蜘蛛(ひらぐも)』は、売られている女の質もサービスも良く客からの信頼も厚いとこの辺りでは有名な老舗店である。そのシステムはコースや時間で料金が分かれ、さらに自分で好みの女を選べばプラスで指名料がかかるという分かりやすくシンプルなもの。だがそれは表向きのシステムであり、大企業の社長や政治家等ごく僅かの限られた「特別客」と呼ばれる人間にしか知られていないもう一つのシステムがある。
裏の平蜘蛛、そこで売られているのは「男」だ。
歳は若く世間からも容姿も美しいと言われるであろう所謂美男子達を集め商品に、そんな同性の若い身体を求める男達を客に商売をしていた。そこで働いている青年達のほとんどが借金の形に連れてこられた者や裏世界のトラブルに巻き込まれてしまった者などが多い。中にはごく稀に自ら好んで働く者もいる。彼らは外に出ることは許されず、やや広めのワンルームのような部屋で一日を過ごす。部屋には大きなベッド、バスルームにトイレ、電源ボタンしか付いていないテレビが備え付けられている。窓は一つだけあるが縦横三十センチもない小さな窓が壁のはるか上に取り付けられ、とても逃げ出すのには使えない。そして部屋の天井にはカメラが設置され、行動を一日中監視されている。この閉鎖された空間の中で青年達は生活をし、更にこの部屋で客の相手をするのだった。
平蜘蛛の店の奥、特別客だけが開けることの許される扉。若い青年の身体を求め、今夜もまたその扉は開かれる。
「はっ……あ、あぁっ……」
「はぁはぁ、気持ち良いよ…すごく気持ち良いよ、重治君……」
薄暗い部屋の中で響くのは規律的に軋むベッドの音にいやらしい水音、そして二人分の荒く乱れた息と声。恐らく五十代と思われる小太りの男は、青年のしなやかな両足を抱え己の肉棒を後孔へと突き立てる。額にも身体にも汗を滴らせながら腰を打ち付け、時折その細い首筋や胸元に舌をねっとりと這わせ若い身体を味わった。その感触に「重治」と呼ばれた青年は身体をびつくかせ、肉棒を咥える後孔をぎゅっと引き締める。
「くぅっ、あぁいいよ、すごくいい……っ!」
男はそれが良かったらしく抱える足を青年の胸に付くぐらい折り曲げ、より激しく腰を振った。苦しさからか快感からか青年は柔からな銀髪を振り乱しながら声を上げた。
「あっ……ひ、ぃあっ……やっんん……っ」
「はぁっはぁっ……ここ、好きだもんねっ重治く、んっ」
「やっ、あっああっ……ひァッ!」
「あっでる、でる……っ!」
青年が白い身体を反らし痙攣するのと同時に男も限界を迎えその後孔に白濁を放った。
「はぁはぁ……重治君……ねぇ、重治君……」
うわ言のようにその名を繰り返し呟きながら、男は青年の身体を抱き締めた。そして息が整うのを待たずに深く口付け、互いの顎に涎が垂れるのも気にせず口内を貪った。
熱を持った体が落ち着いた頃、青年はバスルームで男の身体を丁寧に洗う。タオルで水を拭き取り服を着せ、身なりを整えると青年は部屋の出口で男を見送る。スーツをきっちり着込んだ男とは対照的に青年は裾が太ももあたりまである長めのYシャツを1枚着ているだけの格好。これが平蜘蛛で働く彼らの制服のようなものだった。男は献身的に接してくれる青年の頭を撫で頬に軽く唇を落とす。
「ありがとうね重治君、また来るよ」
そう言うと青年はふわりと笑って答えた。
「ありがとうございます、いつでもお待ちしております」
紫の瞳を細めて微笑むその美しい顔を名残り惜しそうに見つめながら男は部屋を後にした。そのすぐ後に扉からガチャリと重い音が鳴り、自動ロックが掛けられた。それを確認すると青年は溜め息を吐きながらベッドへと足を進め、乱れたままのシーツの上へと倒れこんだ。まだ残る男と性行為の匂いに顔を顰めながらも起きる気にはなれなかった。すると頭上から突然声が掛けられた。
『今晩もご苦労だったね、半兵衛』
声がするのは天井に付けられたカメラから。マイクとスピーカーが内蔵してあるカメラは監視する側とされる側の会話を可能にしていた。
「松永殿、ここではその名で呼ばれたくはないんだけど」
『いやいや、すまないね重治。先程の客で今晩はもう終わりだ、ゆっくり休むがいい。風魔もすぐそちらへ向かう』
この部屋に閉じ込められた青年「重治」、それはここ平蜘蛛での半兵衛の名であった。そして半兵衛に「松永殿」と呼ばれた男こそこの平蜘蛛の経営者「松永久秀」である。愛に誘拐されその部下たちに犯された後半兵衛は再び気を失い、次に目覚めた時にはこの平蜘蛛にいた。二度と政宗の元へ帰って来られぬようにと気を失った半兵衛を見知らぬ土地へ連れて行き、そして久秀の店へと売ったのだ。
『明日は一日空けよう、今日は卿の身体に無理をさせてしまったからな』
「お気遣い感謝しますが僕は大丈夫です、明日もいつも通り回してください」
気怠いながらも身体を起こしてベッドの上に座り、凛と背筋を伸ばしてカメラに視線を向ける。半兵衛はここで働く青年達の中でただ一人、何度身体を汚されても心が折れることのなかった人間だった。久秀が初めて半兵衛に顔を合わせ、事の経緯を話した時もショックを受けるわけでも嘆くわけでもなく、ただ静かに頷き受け入れた。久秀はそんな半兵衛をとても気に入ったのだ。
『いくら卿の申し出でも今回は聞けないな、明後日はとても大事な客の予約が入っているのでね』
「ふぅん……」
半兵衛が大して興味もなさそうに相槌を打ったところで、再び部屋にガチャリと重い音が響いた。
『では、風魔。後は任せた』
そう言い残すとプツンと音を立ててスピーカーは沈黙した。そして出口の重い扉が開かれると赤茶色の髪の男が中へと入ってきた。彼は久秀の部下「風魔小太郎」襟足は肩に付かないくらいだが前髪で目元を隠していていつも表情は読み取れない。更に無口を通り越して誰とも一言も喋らないため、彼の素性や性格を知る人間はいなかった。
「いつもすまないね、今日もよろしく」
半兵衛がそう笑いかけるも小太郎は何も喋らずただ頷くだけ。だが半兵衛にはこれくらいの反応が楽でちょうど良かった。半兵衛はベッドから立ち上がり、汗で湿ったシャツを脱ぎ捨てるとそのままバスルームへ入った。裸で真横を通り過ぎる半兵衛に何の反応も示さず、脱ぎ捨てられたシャツと乱れたシーツを回収し小太郎は黙々とベッドと部屋の掃除を始めた。
これが半兵衛の新しい日常だった。平蜘蛛へ来てすぐ次の日には客を取らされた。そして情事の後にはすぐ風魔が来て部屋を整える、その間に自分は身体を清めまた次の客の相手をする。恐らく平凡な日々を送ってきた人間からすると気が狂うような仕打ちだろうが、不思議と半兵衛は嫌悪感も何も感じず受け入れることができた。まるで人間観察でもするかのように自分の置かれた状況をいつもぼんやりと見つめていたのだ。
最初に取った客は普通の男だった。見た目も肩書きも年相応のものであり、ベッドの上でも至って普通の交わりであった。その次に取った客は縛るのが好きらしく、両腕を後ろに拘束されたり、時にはあられもない格好に縛られそのまま挿入に至ったりもした。そのこと自体には特に何とも思わなかったが、行為の後は身体中に縄の跡が残る。それが半兵衛は気に入らなかった。その次の客は「大人の玩具」と言われるものを使い、己は服一枚脱がずひたすら半兵衛を絶頂させることに精を出していた。果てても果ててもひたすら動き続ける無機質な道具。立て続けに与えられる刺激に最後は泣きながらやめてくれ、と懇願したが、結局は半兵衛が気を失うまでその行為は続けられた。一番酷かったのは暴力に走る客だった。最中には必ず肩、腹、腕、脚とにかく顔以外の目につく所を殴りつけ、最後は必ず細い首をぎりりと絞めて半兵衛の中に欲を放つ。この客のことは久秀自身も快く思ってはいなかった。
そしてある日その客は刃物を使って半兵衛の身体を傷付けた。抵抗して暴れようとする半兵衛を動けないよう縄で拘束し、小さなナイフでその白い身体に赤い線を引く。深くはないがズキッと痛む傷に顔を歪ませると男は嬉々として息を乱し、次に次にと半兵衛の身体にナイフを入れた。さすがの半兵衛も男の狂気に恐怖を覚えたが、争うこともできずただただ歯を食いしばって耐えた。身体中が自分の血で染まるにつれ恐怖と混乱で呼吸が荒くなる。男はうっとりとしてその姿に見惚れた。傷口に舌を当て、抉るように舐め上げると半兵衛から苦痛の声が漏れる。その時だった。ガチャリとロックが解除される音と共に複数人の店のスタッフ達が部屋へなだれ込んできたのだ。男を半兵衛から引き剥がし、床へ転がし四人がかりで抑えつけた。呆然とする半兵衛に小太郎が素早く寄り添い、拘束を解いてその痛々しい身体を隠すように大きめのバスタオルを掛けた。何やら罵声と文句を叫びながら男は部屋から連れ出され、それと入れ替わりに久秀が部屋へ入ってきた。
「すまなかった、だが卿は実によく働いてくれた」
「……どういう、ことですか?」
バスタオルの両端を胸の前でぎゅっと握りながら久秀の言葉に首を傾げる。
「彼は今後一切、店への出入りを禁止する。もちろん、表も裏もだ。元々店としても快く思ってはいなかった輩だが彼の企業とは付き合いが長くてね……なかなか告げられずにいたのだよ」
男が連れて行かれた出口の方を見ながら久秀は満足そうに笑う。そしてやっと半兵衛は理解した。あの男を追い出すために利用されたのだと。本来ならカメラが付いているこの部屋で、ナイフなど出せば直ぐにでもスタッフが駆け付けるはずだった。だが今回、半兵衛の予想より遥かに遅く彼らはやって来た。確固たる口実になるギリギリまで待っていたのだ。
「私を恨むかね、重治」
ようやく半兵衛に視線を合わせて久秀は問う。半兵衛はその目を真っ直ぐ見つめてただ一言答えた。
「……いいえ」

そんな事件が起こっても、半兵衛は顔色1つ変えず客を取り続けた。それどころかこの日をきっかけに痛みや恐怖にも怯えることはなくなった。
こうして快楽、羞恥、屈辱、痛み、どんなに攻め立てても動じることのない「知らぬ顔」の噂は瞬く間に広がり、その顔見たさに、またはその顔を歪ませたいと連日多くの客が訪れるようになったのだ。
「ありがとね、小太郎君」
汗と精液を洗い流しすっきりした顔で半兵衛はバスルームから出てきた。髪も身体も濡れたままの半兵衛に小太郎は素早く反応し、バスタオルで細い身体を拭い始る。
「真面目だよね、君って」
「…」
返事はない。だが、それでいい。その後も返事を求めることなく独り言のように半兵衛は小太郎に話しかけ続け、その間に小太郎はせっせと半兵衛の身なりを整えた。
全ての仕事が終わり眠る時にはあの裾の長いシャツではなく、すこし厚めの衣類を与えられる。その服に袖を通し半兵衛は整えられたベッドへと身を沈めた。もぞもぞと布団の中へ潜ると小太郎が部屋の電気をゆっくり暗くしていく。視界が闇に包まれるのと同時におやすみ、と呟き半兵衛は目を閉じる。やはり答えはしないが、小太郎は一度だけ半兵衛へ会釈をし部屋を後にした。

一日何の予定も無くチャンネルの固定されたテレビを見ていた次の日、半兵衛は初めて部屋の外へと出ることが許された。もちろんその両隣りにはスタッフが並び、少し後ろには小太郎が付いている。それでも初めて見る部屋の外には興味が湧き、ほんの少しだけ浮き足立っていた。いつも閉ざされている扉を出ると、右と左に真っ直ぐ伸びる通路とその壁にはいつも見ている扉と同じものが幾つも並んでいるのが見えた。まるでマンションやアパートのようにその扉には名前が書かれた札が掛けられていた。
「……まるで飼い犬だね」
名前を付けられ閉じ込められている自分を含めた青年達に同情の念を抱き呟いた。一人のスタッフが急かすように背中へ手を添えると半兵衛は素直に従い足を進めた。通路を右に真っ直ぐ歩いて行くと、突き当たりに今までのものと全く違う扉が佇んでいた。真っ赤な鉄板に金の装飾、取っ手までも金箔で塗られている。恐らく今日はここで仕事をするのだろうと半兵衛は思った。
「中に入ったらいつも通り挨拶をしてください」
隣に立つスタッフが口を開いた。そして扉に手をかけるとゆっくりそれを引き、半兵衛を中へと促した。一度だけ深呼吸をして、半兵衛は部屋の中へと足を進めた。

部屋の中は半兵衛達の生活する空間とはまるで違っていた。壁はまるで西洋のような模様が彫り込まれ、床には一枚で部屋全体を賄うほど大きくふかふかの絨毯が敷かれている。部屋の一番奥には二つのキングサイズベッドを並べたのではないかというくらい大きなベッドが置かれていた。それを眺めるように並べられた大きな一人用のソファが三つ。後ろ姿しか見えないがそこにはすでに人が三人腰掛けていた。彼らが久秀の言う「大事な客」だと勘付いた半兵衛は、背筋を伸ばしすすっとソファの前まで歩み寄る。三つの内の真ん中のソファの前で半兵衛は正座をし、膝の前に両手を揃え指先を付け頭を下げる。
「初めまして、重治と申します。今夜はよろしくお願い致します」
ほんの少しの沈黙の後、頭上のやや左側から声が聞こえた。
「どうぞ、顔を上げてください」
上品に、だがどこか不気味な声だった。言われた通り顔を上げると口元に笑みを作ったまま半兵衛はゆっくりと三人の顔を見回す。先程声を掛けてきた左側のソファに腰掛ける男は半兵衛と同じ銀髪だが、真っ直ぐで長さが腰くらいまであるため声を聞くまで男だとは分からないだろうと思った。目の前のソファに腰掛ける男はこの中で一番年上で恐らく二人の上司であろうと半兵衛は考えた。短めの黒髪を後頭部で髷のように結い、口元の髭は綺麗に整えられている。座っているだけでも痛いほどに感じる威圧感、そこには貫禄と恐怖に似たものもが混じり合い、鋭い視線は半兵衛を突き刺した。それでも半兵衛は動じない。臆することなくその瞳を真っ直ぐ見つめて少し深めに礼をする。最後に右側のソファに座る男へ視線を移すが、その男はこちらを見ることもなく腕を組み俯いて目を閉じていた。彼もまた後頭部を髷のように結っているがその髪は茶色く、もみあげは長くて毛先が少し曲がっている。身体は大きく身長は半兵衛より遥かに上と見えた。
「これが知らぬ顔か」
低い声が部屋に響く。
「えぇ、これが店一番の商品だそうです。きっと信長公もお気に召していただけるかと」
銀色の長髪が怪しく揺れた。再び頭を下げた半兵衛は頭上で交わされる会話に耳を傾けながら「信長」という名前に頭を巡らせた。政宗の下で働いていた頃の記憶を辿り情報を繋ぎ合わせる。経済の世界では必ずと言っていいほど耳にする「魔王信長」という異名、平蜘蛛へ来る客は社長や政治家クラスの人間、日本に名を轟かせる大企業「安土有限会社」、その社長の名は「織田信長」、半兵衛は目の前にいる人間が誰なのかはっきりと確信した。
「重治」
静かに呼ばれて顔を上げる。すると続けて立て、と命じられ、半兵衛は素直に従いその場に立ち上がった。シャツの裾が揺れて太ももを掠る。信長は半兵衛の顔から足までゆっくりと視線を移すと最後に紫の瞳を射抜いた。
「そこで脱げ」
険しい顔だが薄っすらと口元に笑みが浮かんだ気がした。そしてその言葉のすぐ後に銀髪の男が小さく笑う。試されているのかもしれない、そう思いながら半兵衛はシャツのボタンへ手を掛ける。その顔には動揺も恐れもなく、静かに笑ったままだった。一つ一つボタンを外すと少しずつ胸元が露わになっていく。最後のボタンを外した後、肩からするりとシャツを落とす。
「…」
「あぁ、イイ身体をしていますね…重治さん」
「光秀、貴様は待て」
舌舐めずりをする光秀を制し、信長が立ち上がる。少し高い視線に目を合わせると吊り上がった瞳がカッと見開き、途端に半兵衛の身体が後ろへ吹き飛んだ。
「っ!」
幸い、半兵衛が倒れた場所はベッドの上で痛みはなかった。何が起こったのか把握できないまま倒れ込んでいると、途端に下半身へずしっと重量が掛かり身体の自由を奪われる。見上げる先には馬乗りになりスーツを着崩していく信長がいた。そして信長は外したネクタイで半兵衛の細い両手を縛ると片手で頭上に縫い付け、鼻と鼻がくっつく寸前のところまで顔を近づける。
「余が恐ろしいか?」
「……いいえ」
「フ、良い顔をする」
半兵衛の返事に気を良くしたのか、ニヤリと笑うとそのまま深く口付けをした。その口付けは互いの気持ちを高めあうものでも半兵衛を気持ちよくさせるものでもなく、ただ一方的に貪り味わうようなものだった。半兵衛が絡ませようと舌を伸ばすも逆に押し込められ口内を蹂躙される。その深く激しい口元にだんだんと息が苦しくなり顔を背けようとするが、空いている方の手で髪の毛を掴まれ固定される。
「んっ……んん、はっ……ん……」
角度を変え何度も何度も舌が交わり、仰向けに寝転がっているため半兵衛の頬や顎に二人分の涎が伝う。無意識に足がもがき始める。目尻に涙が浮かんできた頃にやっと唇が離れ肺へ一気に酸素が流れ込む。
「はぁっ……はっ……」
頭上で押さえていた手を離されても下げる気にはならず、胸を上下させ必死に酸素を取り込もうとする。身体の下で苦しむ半兵衛を気にもとめず、忙しなく動く喉に信長が噛みついた。
「あッ……!」
突然の痛みに半兵衛が鳴く。逃れようともがく身体を押さえ込んで薄い皮膚へ徐々に歯を食い込ませていく。半兵衛はじわじわと広がる痛みにきつく目を閉じて耐えた。その額に脂汗が浮かび信長が口内でその血の味を堪能した頃、白い喉から口を離し、自ら刻んだ赤い歯型に舌を這わせる。
「い゛……あっやだっ……!」
ズキズキと痛む傷口を舌で抉られ半兵衛の瞳から生理的に出た涙がぽろぽろと溢れた。背けようとする顔を無理矢理自分の方へ向かせると信長が低く囁いた。
「鳴け、もっと鳴け。その顔を歪ませろ」
鋭い眼光が紫の瞳を射抜く。その瞬間、半兵衛は背筋が凍るような狂気を感じた。

To be continued...

お待たせした上にまだ続きます。

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朝顔の夜