日常を脱却せよ
最悪だ最悪だ最悪だ!
夜道を全力疾走しながら呪文のように何度も心の中でそう吐き捨てた。走り過ぎて肺はきりきり痛むし、酸欠で脳がくらくらする。
思えば今日は朝からついていなかった。
目覚まし時計の故障で寝坊してしまい、家庭教師であるリボーン に大きなハンマーで殴られ、躓いて階段からは転げ落ち、用意された朝食も食べることも出来ずに登校すれば案の定遅刻。そして風紀委員長である雲雀恭弥に殴られ、挙句弁当は忘れーーーとにかく今日は目覚めから散々だったのだ。
そして、極め付けはこれである。
刀を持った化け物に、追われている。
「なんなんだよっ!俺が何したって言うんだよー!」
悲痛な叫びは化け物に届くこともなく、ついには行き止まりに追い込まれてしまった。
この場にいつもいるリボーン もいない、ついてないにもほどがある!と涙ながらに己の悲運を呪うと、刀をこちらに振り上げようとした化け物の頭上に、無数のダイナマイトが舞った。けたたましい爆発音と共に化け物の呻き声が響く
「お怪我はありませんか、10代目!!」
「ご、獄寺君!」
頼れる仲間の登場に綱吉は目を輝かせた。
「今のはいったい…!?」
「それが、俺にもよく分からなくて…」
またリボーン の差し金だろうか…?と獄寺が来てくれたことにより生まれた安心感により、そんな疑いを持ち始めていると、化け物がまた動き出したのだ。
「なっ!?こいつまだ!?」
「う、嘘ーーー!?」
獄寺が更にダイナマイトに着火しようとするよりも早く、化け物は大きく刀を振り上げる。に、逃げて下さい10代目!!と獄寺が叫ぶと同時に、化け物が叫び声を上げた。
そして、ぐしゃりという音と共に化け物の首が地面に落ちる。
「え…?」
そこに立つのは布を目深に被り、片手に刀を握った男だった。
刀を鞘に納めると、こちらに歩み寄ってきた。
「おい、怪我はないか」
「あ、あの…あなたは?」
「っ、てめー何者だ!?何処のファミリーだ!?」
「おいおい、助けてもらったんだから先にお礼を言うべきじゃないか?」
不意にその場にはいない若い女の声が響いた。布の男の後ろから、ひょこりと自分達とあまり年の変わらないような少女が姿を現わすと、お疲れ様、山姥切と、布の男を労うように撫でた。その姿を見ただけでお互いに強く信頼し合っているという様子が感じ取れる。
「あ、あの、ありがとうございます…」
「構わんよ。君はそちらの子より礼儀を弁えてるようだな。学友ならその無礼な奴に常識を教えてやったらどうだ?」
「なっ!?どーいう意味だてめー!!」
「ご、獄寺君落ち着いて!…あ、あの、あなた達はいったい…?」
「すまないあまり時間がなくてね。自己紹介は後日ゆっくりとさせてもらおう。長い付き合いになるかもしれんからな。」
「長い付き合い…?」
どういう意味ですか?と聞く前に、二人の姿は闇へと溶けた。
確かに彼女は長い付き合いになるかもしれないと言っていた。ひょっとすると、リボーン の知り合いなのかもしれない。となると、あの二人もマフィアなのだろうか。
「…何だったんスかね、あいつらといい化け物といい…」
「そうだね……なんだか、またすぐ会うような気がするけど…」
きっとまた近いうちに何かあるのだろう。
先程の彼女の意味深な発言、そして何より、彼の中に巡る血が、そう告げていた。