高校生らしくない彼の説明って言われても、うまく言葉にできないものだ。
どこからどう見ても見た目はそこらへんにいるヤンキーなのに、ふとした瞬間にそれが消える。その瞬間を言えと言われても、やはり難しいのだけれど。

「名字〜!見ーたーぞー!お前また告白されてたろ?」

練習が終わったあと一人ベンチでぼけーっとしてる彼に向ってそう言えば、少しの苦笑いが返ってきた。

「ハァー?スガくん見てたの?やだーすけべー」
「そんな死にそうな声で言われてもねぇ…。今回もフったんか?」
「…まぁ」
「ふーん」

彼が告白されている場面を見るのは今日が初めてではなかった。
その割と整った顔と面倒見の良い性格がそうさせるのか、見た目に反して彼に好意を寄せている女の子を俺は何人も見てきたし、大半が淡い望みを期待して思いを告げていた。けれど、彼はそのうちの誰とも付き合ったことはなかった。

「お前さ、なんでフっちゃうわけ?」
「なんでって、スガくんは好きでもない子と付き合えるんですかぁー?」
「わかんない。でもタイプだったら考えるかも」
「あー…まぁー…それはわからなくもないけどぉー」
「女の子が勇気だして告白してんのに、それを全部フっちゃうんだもんなぁ。モテる男はつらいねぇ!」
「他人事だと思って…」
「だって他人事だしー」

はぁ、と溜め息をついて黙り込んだ彼は、多分今日のことでも思い返しているんだろう。俺もはっきりと顔を見たわけじゃなかったけど、相手の子は結構可愛かったと思う。
今時校舎裏で告白なんてする奴いんのかって思ってたけど、実際その場に遭遇するとドラマの撮影現場に来たような錯覚を覚える。当の本人は一体どういう心情であの告白を体験しているのだろうか。

「相手の子さー」
「んー?」
「一年生?」
「うん」
「この間は三年生だったし、その前はお前と同じ学年だったし…いやー幅広いなーほんと!」
「っつかどんだけおれの告白現場に居合わせてんの!?ちょっと怖っ!」
「たまたまだっつの!後輩の告白現場に居合わせる気まずさ知らねーだろ!」
「うっそー、内心楽しんでるくせにー」
「あ、バレた?」
「バレバレだし。見たって報告してくるスガくんちょうやらしー顔で言ってくっから」
「え!マジで!」
「いつもニヤニヤとおれをおちょくる気満々ですよ」
「まぁ当たってるけどな」
「ひでー」

力なくへにゃりと笑う姿はちょっとだけ情けない。でもこういう彼を見れるのはきっと一緒に部活やってる俺らの特権だろう。ま、彼の場合だとこういうマイナスな姿を見ても逆にきゅんって来ちゃう!とか言われるんだろうなぁなんて。

「名字さ、好きな子いないの?」
「はいー?」
「そんなに告白されてもオッケー出さないってことはさ、もう好きな子がいたりして?まさかやっぱり清水!?」
「ないない。キヨにも失礼」
「じゃあなんでだよ?」

俺がそう言って食い下がると、彼は少しだけ微妙な顔をして口ごもった。なにか理由があるんだろうってそこでわかったけれど、それが何なのかはっきりしない。
彼と清水の関係も頭では理解していても「もしかしたら」の可能性だってなくはないんだから。なんて、そこまで考えたけどやっぱり彼の態度や考え方を知ってる俺からすれば、色恋沙汰じゃないってことは理解してるつもりだ。

「今青春しとかないでいつするんだよ。出来るときに彼女の一人や二人作っといたほうがいいんじゃね?って今は部活でそれどころじゃないかもしれないけどさ」
「………」
「別に恋愛禁止って言ってるわけじゃないんだし。まぁ無理に作れとも言わないけど」
「………んー」

ここまで言ってもまだ理由を語ろうとしない彼に、俺はもうそれ以上追及することをやめようと思った。勝手に話を切り上げて、次は別の話題をふろうとした矢先、彼が言いづらそうにだって…、とこぼす。

「ん?」
「女子高生っすよ?相手…」
「うん?」
「おれの彼女になるであろう子達はさぁ」
「………。そりゃ高校で作るんだから必然的にそうだろ」
「や、なんかダメだろ」
「は?」
「おれが女子高生に手ぇ出しちゃダメだろ。それ軽く犯罪だから!」
「はぁ?」

何かのスイッチが入ったであろう彼は、今まで眠そうにしていた目をカッ開き、恐ろしいものを見たかのような顔で俺に力説してくる。

「ちょ、どうした名字よ」
「いいかスガ!よく聞けよ?女子高生っつーのは一種のブランドなの。現役時代が一番攻撃力の高い武器なわけよ。ドラ○エでいうメタルキ○グの剣並ね?わかる?」
「…で?っつか呼び捨て…」
「あいつらはそれを男に使うとどれほどの打撃を与えられるか熟知してんだよ!もうたった一撃でクリティカルヒットなわけよ!9999!即死!むしろオーバーキル!」
「名字?」
「女子高生いやだ!女子高生怖い!あることないこと言って一人の人生終わらしちゃう破壊力持ってんだぜ!そんな女子とわかってて付き合えるか!?否!!」
「もしもーし」
「中には純粋の塊でおれなんかが手を出しちゃいけない素材もいてさ!!もうそういう子相手にするとマジ心が痛むんだって!失恋で傷心中?あほか!おれは更にその上だっつーの!」
「なんだ?コイツどうしたんだ?」
「知りません。ちょっと壊れちゃったみたいです。あと頼みます」
「え!おい菅原っ!」
「おれみたいなおっさんが簡単に手を出しちゃいけないの!「おっさん?」女子高生には男子高校生で充分なの!「お前じゃん」汚れきった大人が手を出しちゃだめなの!「何言ってんの?」それが女子高生!ああもう怖い!なんでおれの周りには女子高生しかいないの!?ばかなの!?」
「お前がばかだろ」
「…あれ?繋心?スガは?」
「もう着替えに行ったぞ?お前が暴走し始めてついていけなくなったってな」
「…はぁ。世の中理不尽ばかりだな、繋心や…」
「そうだな。とっととお前も着替えてこいばかが」

手に負えなくなったあたりでコーチが来たからバトンタッチしたけれど、結局彼がどうして誰とも付き合わないのか、その理由はいまいち理解できなかった。意味不明なことばっかり言ってうまくはぐらかされた気がするけれど、どうにも本心のような気もする。
だいたい高校生同士で付き合うことの何が犯罪なのかさっぱりわからない。

「あっスガ!名前見なかったか?」
「あーなんか暴走してた。まだ体育館にいると思うけど」
「は?暴走?」

何やってんだアイツ、と眉間に少しシワを寄せる大地を見ながら、彼のことなら大地に聞けばいいんじゃないかと名案が浮かぶ。

「大地は名字がなんで誰とも付き合わないのか理由知ってる?特定の子もいないみたいだしそもそも恋愛する気もなさそうだし」
「付き合わない理由?うーん、忙しいからじゃないのか?」
「忙しくてもさー別に恋愛するしないは自由だべ」
「いやでもアイツ本当にそういう時間ないと思うからウソじゃないと思うぞ?」
「?、どういうこと?」
「基本的に部活としてバレーやってるけどさ、週一で水泳と空手、あとバイトもしてたはずだから」
「は!?なにそれ!?」
「それに暇さえあればバイクで音駒とか梟谷に行ってるみたいだし、恋愛してる余裕なさそうだけどなぁ。モテるのは知ってるが。癪だけど。一応あんなでもモテるみたいだから。癪だけど」
「(大地も相当………)」
「たまに休日も教師から連絡きてる。前はパソコン修理しに行ってた」
「名字って何者?変態?」
「うん変態」

それだけ日々を生き急いでいたら恋愛してる暇なんかなくて当然だ。っていうか烏野で散々バレーやっといて音駒と梟谷行くって何!?あと教師から休日に呼び出されてパソコン修理するってやってること業者じゃねぇか!
もうほんと変態としか言えない生き方に、ほんの少しカッコいいと思ってしまった。ほんの少しだけな!絶対に言ってやんねぇけど。

かたくなに愛を拒むのは

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