家光さんとバジルと一緒に暮らすようになってわかったことがある。あの二人は各地で石油を掘ってるらしい。凄く怪しいけどそう言い張るからあまり気にしないようにしている。
そしてここはイタリアで、ボンゴレファミリーがしきる街らしい。やっと出てきた聴きなれたリボ語になんだか少し安心した。
あの二人が仕事帰りにいろいろと服とか買ってきてくれるから衣類には困らないんだけど。やっぱりなんか外に出れないのって暇だ。極力出るなとも言われてるし、あたしも下手に出て迷ってもいやだし。
それに、ないとは思うけどディーノに会ったらヤダし。別に会いたくないってワケじゃないんだけど…。
でも下着とか自分で選んで買いたいし、散歩だってしたい。極力外に出るなってことは、ちょっとなら出てもいいんだよね?ね?ね?そーゆーことだよね?間違ってないよね?ってことで行ってきます。
極力ってほぼ絶対って意味
イタリアの空気は澄んでいてとても気持ちが良かった。やっぱり出かけて正解!ずっと家の中でだらけて過ごしてたから、お日様の光が物凄く眩しいや!
あまり遠くへは行かないでおこう、と心に決め、真っ直ぐに直進していくと古い小物屋があった。
「おー!この古臭い感じがなんとも言えないね!ん?でもこれ閉まってるのかな?」
店の前には”CHIUDERE(キウーデレ)”と書かれた札が立てかけられていた。
「なんて読むんだろ?イタリア語読めないからわかんない…ガイドブックが欲しい…」
諦めてそこから立ち去ろうとしたら前から見慣れた人たちが!え?ちょっと待って?!何で?何でここにいんのよ!
「ボスー、何で歩きなんだ?」
「だって天気いいだろー?歩いたほうが気持ちいいじゃねーか!」
「ボスらしいっちゃらしいがなー」
前からディーノと二人の部下が来た。ロマーリオと、誰だっけ?
あたしは咄嗟に小物屋の外に放置されてた家具の陰に隠れて身を縮めた。あぁ!草がぼーぼーでイヤだけどそんなこと言ってらんない!
ディーノたちの話し声がどんどん大きくなって、店の前で足音が止まった。
「オレは、こういう天気に歩くってのは、ちゃんと意味があるんだぜ?」
「ほぅ、どんなだ?」
ディーノは一息ついてから答えた。
「名前を、探してる」
え?あたし?
「ボス…名前嬢はもう…」
「わかってる。死んでるかもしれないってことはわかってんだけど…やっぱどっか、諦めきれねーんだ」
「何で、そこまでしてあの子を?」
「はは…さぁ?何でだろーな。でも、名前は生きてると思うんだ。なんかわかんねーけど、そんな気がする。だから、あいつが消えた日と同じ晴れた日には、あいつの影を探し回ってんだ」
ディーノ、あたしがのうのうと過ごしてるなか、そんなにも気にかけてくれてたの?まだあたしが生きてるって信じてくれてるの?何で?もう忘れてくれて、よかったのに。
「あいつ手紙に書いてたんだ。自分が死ななかったらまたどこかで会おうって。オレはそれを信じてんだ」
「ボス…」
そう言い残してディーノと部下たちは小物屋に入っていった。
あの時、ディーノがどんな顔で、どんな気持ちで言ったのかはわからないけど。胸に込みあがってくるこの切なさはきっと、あたしがあの日手紙と一緒に置いてきたものなんだ。
ディーノの声が聞けた嬉しさと、顔を見れない臆病さと、この空の気持ちよさが渦になって、消えてくれない。あたしはいたたまれなくなって、そこから駆け出した。
(涙なんか出ない)
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