走って走って走って。息が出来なくらい、全速力で走った。途中足がからまってこけそうになったけど。それでも走った。
家につくと急いで鍵を閉めた。呼吸が、追いつかない。苦しくて、悲しくて、辛くて、座り込むと立てなくなって。窓から差し込む光を、今は遮りたくてしょうがない。
気付かれたかもしれない。見られたかもしれない。立ち止まって後ろを見る勇気なんて、無かった。ディーノに会った。外に出なければよかったと心底後悔した。
確かにあたしは生きてたら会おうって書いたけど、あれは何ていうか、その場のノリで書いたことで。まさかあんなに本気にしてるなんて思わなかった。まさかあんなにあたしを探してるなんて思わなかった。
嬉しい反面、悲しかった。あたしはここにいるよ!って叫びたかった。でも、それさえも出来ないのはきっと。裏切った罪悪感があるから。
こんなことなら、あの時逃げずに記憶を消してもらっとけばよかった。記憶とともに、存在自体を無かったことにしとけばよかった。
今でこんな状態なら、きっと、これからもあたしはディーノを避け続けると思う。その度に傷付くディーノを見なければならない。あぁ、もう、それならばいっそ…。
決めたよ。今日、家光さんとバジルが帰ってきたら言おう。
彼よりも遠くへ
夜になって家光さんとバジルが帰ってきた。帰ってきて直ぐには言えなくて、二人が落ち着いてから話そうと様子を伺っていると、家光さんにどーかしたか?って聞かれた。言うなら今しかない!
「あ、あのですね!」
「ん?」
「日本に行きたいんですけど…どーしたら行けますか?」
「「は?/え?」」
「いや、だからね…日本に行きたいの」
「何でまた、日本に?」
「そ、それは…えと…」
言おうかどうしようか迷ってると、行く手段はあるのか?と家光さんに聞かれた。
「あの、それが無いんです。だから困ってるんです。パスポートを作ろうにもお金ないし、何より…」
「何より?」
「あたしを証明するものがないから」
家光さんは何も言わなくなって、バジルも意味ありげにあたしを見た。理由を聞かれる覚悟があったのに家光さんもバジルもそれには触れなかった。
聞かれても答えなんて用意してなかったから丁度良かったけど…聞かれないのは聞かれないので何処かひっかかりがある。
「日本のどこに行くかは決まってんのか?」
「うん。並盛ってところ」
「!、それって…!」
家光さんとバジルは目を見開いた。あたしなんか変なこと言った?
「二人とも、並盛ってとこ知ってるの?」
ささやかな疑問を口にしたけど、家光さんは何か考え込んでて、バジルは下を向いて答えてくれなかった。
「わかった。名前、明日発てるよう準備して寝ろ」
「え?それじゃあ、連れてってくれるの?」
「ああ。だから早く用意だけ済ませとけ」
「あ、ありがとう!家光さん!」
あたしは与えられた部屋へ少ない荷物をまとめに行った。その残された場所で家光さんとバジルが難しい顔をしてることには気付かずに。
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