あたしに与えられた部屋は6畳くらいのベッドしかない質素な部屋で。あたしに与えられた時間は長いようで短かった。

ディーノにあれを言われてからもう2日が過ぎた。ベッドの上で今日も一人考えるんだけど、どうしたもんかなかなか決心がつかない。あたしこんな優柔不断だったっけ?

今ここで悩んでもきっと答えは出ないだろうから気晴らしに外にでも行こうと思い、ドアを開けた。誰もいないテラスに腰をかけて景色を楽しもうと思っていたのに、やっぱり頭に浮かぶのはあの言葉。

─記憶を消させてもらう─

記憶を消す、か。キャバッローネの今の技術はそんなにも高度なものなんですかね。あーすごいすごい、エジソンもビックリだわ。

しかしあたしだけみんなのこと忘れるのって、なんかムカツク。なんであたしだけ?それならいっそ、みんなの記憶からもあたしを消してほしい。

ツナたちにはそりゃ会いたいよ。でも、その代償が大きすぎるんじゃないかって思うの。

「忘れたくなんか、ないよ」

覚えていたい。誰が、どうやって、なんのために、あたしをこの世界に連れてきたのかは知らないけど。

折角この世界に来たんだから。この世界に来て初めての思い出なんだから。覚えていたいよ。

「ディーノとの記憶だよ?忘れたくなんかないよ」

だけど消さなきゃいけないだなんて。本当に残酷なことを言うんだね。これが、想像もしてなかったマフィアと一般人の違いなのかな。漫画だけでは伝わらない、マフィアの世界の掟なのかな。

「だけどゴメン…あたしやっぱり、それは違うと思うんだ」

助けてくれた恩を仇で返すことになるけど、もう一回話し合って、それでもダメなら最終手段。

「よし、そうと決まったら早速いけるとこまで交渉しにいこう!」

行き当たりばったりな相談

「ってことでもう一回話し合いませんか?」
「話し合うって言われてもなぁ…」

只今ディーノの部屋であたしの記憶について交渉しているところ。

「何で?やっぱり駄目?」
「だめだ」
「でも…あたしだけ記憶が消されるとかなんかズルイ!」
「ズルイってお前なぁ。そーゆー問題じゃねーって」
「…あたしだけ忘れちゃうなんて、寂しいよ。みんなの記憶から消えることは出来ないの?」
「それは…もっと出来ない」
「じゃあディーノだけ覚えてればいいよ。他のみんなからは消してよ」

そう言うとディーノは困った顔をした。ああもう!そんな顔させたくなんかないのに!

「なんでそんなに消えたいんだ?」
「だから、あたしだけだとズルイから」
「なんでオレだけ覚えてればいいんだ?」
「別にディーノじゃなくてもいい。ロマーリオでも誰でもいいんだよ。一人だけ、覚えててくれれば」
「なんで一人だけなんだよ」

心の中で起きる葛藤に押さえがきかなくなりそう。ごめんね、ディーノ。あたし最近謝ってばっかりだな。だけどね仕方無いと思ってる。

言い訳かもしれないけど、あたしとディーノじゃ生きてきた場所も時代も、もっと大きく言えば世界が違う。だからね、あたしディーノの考え方に納得できないし理解も出来ないの。

「………」
「?、名前」

酷いこと言うかもしれないけど、本当にごめんね。

「…、苦しめばいい」
「え?」
「みんなが覚えてない中、一人だけ苦しめばいいと思ったから。自分しか知らない事実に、しなければよかったって思えばいい」
「ッ!」
「記憶を消す?なんでディーノたちにあたしの大事な記憶を消されなくちゃいけないの?命が狙われる?あたしが選んだ道だもん。それで死のうが別に構わないって」
「…おい…!」
「そもそもそんな機械を作ること自体間違ってるってことに、どうして気付かないの?」
「名前!」
「ごめんなさい。あたしディーノたちのこと好きだけど、そーゆーの理解できないよ。記憶を消すって言うのは簡単だけど…あたしはそれを実行されるのが凄く怖いよ!」
「でも仕方ないだろう!これはお前のためでもあるんだ!」
「だから!仕方無いって何!?あたしのため!?本当にそう思ってるなら、どうしてあたしの立場から考えてくれないの!?そんなの、ただの強制に過ぎないよ!」

そう吐き捨てて、あたしはディーノの部屋から飛び出した。

「名前!おい待て!名前!」

ディーノたちのことは本当に好きだよ。だけどそれは漫画で見るディーノたちのことだったのかもしれない。だってあんな目、見たこと無いよ。切羽詰ったような、泣きそうな目。

悩んでるのはあたしだけじゃないってわかってるのに。決断を下すディーノだって辛いってわかってるのに。

(ごめん、ごめんねディーノ)

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