名前が崖から落ちたのをオレははっきりと見た。あの下には河が流れているが、きっと助からない。

「ボス」
「悪ィ、ちょっと一人にさせてくれ」

今は誰も寄ってこないでほしかった。たとえそれがロマーリオでも。

「ボス、これ…一応渡しておく。あの子が残していった置手紙だ」
「ん…」

オレにそれだけ渡すとロマーリオは去っていった。オレは渡されたそれに目を通した。“置手紙”と始まるその文章に少しだけ笑えた。

恩を仇で返すようなことをしてごめんなさい。いっぱいいっぱい、伝えたいこと、知りたいこと、あたしのことたくさんあるんだけど書ききれなくて。ディーノにはいっぱい迷惑かけちゃって本当にごめんって思ってる。

1週間くらいしかお世話になってないけど、ホント楽しかったし、初めてディーノと会ったときはあたしもビックリした!だってあたしは普通に自分の部屋で寝てたのに起きたら目の前に知らない人だもん!

何があったんだ?とか聞かれてもわからないし何よりあたしは日本にいたのにいきなりイタリアってなんじゃそりゃ、って感じ。っとまぁそんな話はそれぐらいで。

ディーノが間違ってるって思ってるわけじゃないよ。だけどどんなに考えてもあたしは納得できなかったんだ。言われたときはあーそっか、って思ったけど、やっぱり忘れてしまうのって寂しいから。

ディーノだって悩んだんでしょ?あたしだって悩んだんだよ。

あたしはディーノを忘れたくない。ディーノを忘れてしまうのが怖い。だからちょっと手荒かもしれないけど、ここから逃げることにします。あ、靴かりていきます。

あたしが死ななかったらまたどこかで会おうね!チャオ!

名前


なんだそれ。なんだよもう。勝手にデカイ存在になってんじゃねーよ。オレの頭ん中に住み込むんじゃねーよ。

だが、まだ大丈夫。まだ忘れられる。

P.S.言い忘れてたけど

「ん?ぴー、えす?」

そこには置手紙とはまた別のことが書かれていた。

あたしね、ディーノの笑った顔が大好きなんだ!だからあたしの記憶の中で笑ってるディーノの笑顔は絶対に消したくなくて。

出来たら最後はディーノに笑ってじゃーな!って言ってほしかったんだけど…まぁそんなこと無理に決まってんだけどね。

一番最初に出会えたのがディーノで本当に良かったって思ってる。ありがとう、ディーノ。


「…名前ッ…!」

お前を泣かせてしまったオレにありがとうだなんて。お前は何処までお人よしなんだ?

オレは急いで名前が落ちていった崖まで行った。もしかしたら落ちたフリしているかもしれないとか思ったから。

何回も転んで、傷いっぱい作って、それでも行かずにはいられなかった。真っ直ぐ走れない自分に腹が立ったし、こんなに高いフェンスを造ったヤツを恨んだりもした。

でも崖の下には誰もいなかった。名前はどこに?生きてるのか?

なぁ名前、オレのこと間違ってないって言ってくれたの意外に嬉しかったんだぜ。だけどお前のためだって思ってたことは、お前を悲しませてたみたいだな。気付いてやれなくてごめんな、名前。

(いなくなって初めてその存在の重さを知る)

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