綾部喜八郎の一日

僕は綾部喜八郎
忍術学園の四年生です

いつものように穴を掘って
完成した蛸壺を上から見下ろし全体像を確認した所我ながら納得の出来だったので
蛸壺にその身を戻し、居心地の良いその穴で意識を手放し
目覚めたら五百年後の世界にいました

何故かタソガレドキ城の忍び組頭までいるし
不思議な話だとは思うのですがどうしようもないので雑渡さん同様なまえさんの家にお世話になっています


「喜八郎君、起きなさい」


雑渡さんは僕より遅く寝ている筈なのに僕より起きるのが早いです
寝ぼけながら髪を結い顔を洗って
雑渡さんの用意してくれた朝ご飯を胃に入れ
時間になるとなまえさんの父上の店を手伝いに行きます

掃除をしたり皿洗いをしたりひたすらに野菜の皮を剥いたり
重い物を運ぶ際には重宝されます

働き始めた時は色々と質問責めで
ほとんどが僕の身の上話だった為嘘ばかり付く羽目になるのが少し面倒でしたが
今はもうそんな事を聞いて来なく、逆におばさん達の世間話を聞かされるだけです

なまえちゃんは何時嫁に行くのかしらとおばさん達も心配しています

なまえさんは働いてもいないし伴侶もいないのだから皆心配なんでしょう
僕だって心配ですもん

昼の忙しい時間が終わるとなまえさんがご飯を取りに来ます
僕のお昼休みはなまえさんが来ると始まります
雑渡さんと三人で離れで食事をとり

いつものように箸の持ち方を注意され
何時も僕の箸の持ち方まできちんと見てくれるのかなと少し嬉しくなります

午後はまた仕事に戻り
日が沈む頃に大体仕事は終わります
忙しい時や人の足りない時は遅くまで働きますが
僕がまだ子供という事もあって考慮されてるみたいです

夜ご飯をつくって貰い
それを離れに運び雑渡さんと食べ

あとは自由時間
以前なまえさんを落とし穴に落としてから穴を掘る範囲は指定され
落とし穴は危ないから穴を掘るだけにして欲しいとお願いされたので
それからは塹壕や蛸壺を掘る事にしました

時折雑渡さんと手合わせをし
お互い忍者としての感覚を忘れない努力もしていますが
今のところ雑渡さんには勝てる気がしません

程々に穴を掘った後は湯浴みをし
この時代のシャンプーはタカ丸さんが見たらたまらないのかなぁと
学園生活を思い出しては少し寂しくなります

穴も掘れるし衣食住も保証されている
けれどやはり学園生活が恋しくて
不安や寂しさに襲われたりもしますがなまえさんや雑渡さんが甘やかしてくれるので
何とかやっていけています

五百年後の世界に来てしまったのは不運かもしれませんが
不幸ではないです


ふかふかとした布団に包まれて
意識を手放すまで

これが僕の一日です