盧笙が酔っ払い

「今日盧笙遅いねー」

まもなく日付が変わる
この時間まで盧笙が帰って来ない事は珍しく、簓と共に長い時間を潰していた

「何や忘れとったか、あいつ今日飲み会やで」
「あ」

しまった、そういえば言ってたかもしんない
やばい、つまりは流石にそろそろ盧笙が帰ってくる
その事実に焦りを覚えた私は慌てて立ち上がり、自らの荷物をまとめに掛かった
どうしよう、早くしないと

「帰る」
「待て待て待て、もうちょいで盧笙も帰ってくるやろ
てかなまえ、化粧も落としてパジャマ着て寝る気満々なのに何言うてんの」
「やっ、帰る!帰るー!!!」

だからその盧笙が帰って来られると私が困るんだってば!
確かにもう寝る準備は万端だ、それでも何としても盧笙が来る前に帰らなくては
いや最悪帰れなくても良いからここから立ち去らねば

ひとまず着替えようかと服を持ち、部屋から出ようとした時
私の焦りも虚しく玄関の鍵が回る音が響いた
最悪だ、間に合わなかった

「ただいまー何やなまえ、お出迎えしてくれたん?」
「ろ、ろしょー…お、おかえり…」

ああ、こいつ完全に酔ってる
ワンチャン酔ってないという僅かな可能性に賭けたがそんな淡い期待はあっという間に打ち砕かれてしまった
本当は着替えようとしただけであって盧笙を出迎えた訳ではない
けれど都合よく解釈する盧笙は実に気持ち良さそうで、機嫌も良い

どうしてくれよう、思い悩んでる内に盧笙の腕が回され
まだ外の匂いのする外套に身を包んだ盧笙に抱きしめられた

「なまえ風呂上がりなん?はーええ匂いするー…
同じ石鹸つかっとるのにどうしてこんなに違うんやろなー
はー…落ち着く…なまえ可愛い…」

ああ、はじまった
だから盧笙が帰って来る前にここを立ち去りたかったのだ

「帰る。私、帰ります!」
「あっこら、あかんあかん!」

ほろ酔いの盧笙の腕を振りのけ、着替えは置いといてそのままジャケットを羽織り
玄関に向かう私を盧笙は引き止めるが構うものか
私は帰りたい、というか今の盧笙はとことん苦手なのだ

「こんな遅い時間に女の子一人で外歩くもんじゃないで!」
「タクシー!使うし!!」
「そんな金勿体ないやろ!それにタクシー使ったって危ないって、なまえはこんなに可愛いんやからすぐ狙われるで」
「ない!ないから!すっぴんだし!!」
「すっぴんでもこんっなに可愛いんやぞ!襲われるに決まっとる!絶対あかん!!」

ああもううるさいうるさい!!
これだ、これだから酔っ払った盧笙は嫌なんだ
口を開けば可愛いを連呼し、過保護になり異常に触って来る
そしてその時の本人と来たら普段まず見ない程に幸せそうな顔をしているのだ
どう反応すれば良いか分からない、だから苦手だしなるべく一緒にいたくない

この押し問答も今まで何回かしたか分からないのだが簓は何時も楽しそうに見てるだけ
私が酔っ払った盧笙を避けるようになるのに時間は掛からなかったのに簓はずーーーーーっと見てるだけなのだ
いい加減止めて欲しい、私の味方でいてよ簓

「簓も止めてよー!」
「いや、俺もなまえには帰らんで欲しいってか俺一人で酔った盧笙の相手したないし」
「なー?簓も言うとるやろ、なまえ可愛いって」
「いや、それは今言っとらんで。思ってはいるけど」

そんなこんなしてるうちに玄関ドアはガッチリとガードされ
酔っ払ってるとは言え身長180cmを超え日頃高校生を相手にする体力を持ち合わせている盧笙に敵う筈なんてなく

終電も終わったし、何時も通り3人でのお泊りが確定した

「はぁー…なまえ可愛い、綺麗、良い匂い
日本、いや世界一良い女やでぇ…」
「あーもー!だ、黙れー!!!」

私を抱きしめる盧笙から漏れる甘ったるい声は何度聞いても聞きなれなくて

何だかドキドキしてしまうから酔っ払った盧笙はとことん苦手なのだ



「簓は才能の塊やし、俺恵まれすぎや…人間関係が極まっとる…」
「…良いからさっさと寝なさいよ」
「いやー盧笙が酔うとほんと気分良くなるから俺は好きやでー」