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『ねーねー○○ちーん、今日の晩ご飯室ちんの好きなものにしてー』

「…紫原君、一体どうしたんだい」


今日も今日とて求人票とにらめっこ
いっそ一ヶ月位は失業保険も出るし資格習得でも目指してみても良いかもしれない

そう思った昼下がり
大学にいるはずの紫原君から電話がかかってきた


『室ちん彼女にフられたー』

「はぁ?!」

『だから慰めようと思ってーじゃ、よろしくねー』


それだけ伝えて彼は電話を切った

待て、まぁ待て
氷室君は彼女がいたのか

あれだけのイケメンなのだからそりゃいない方がおかしいのだが…
しかし彼女がいる男の家に私は転がり込んでいたのか…
別れた原因は私にもありそうな気がする


「ただいまー」

「二人ともおかえりー」


氷室君の好物と言ってもピクルス位しか分からない訳で
とりあえずハンバーガーとか作ってみたりしたけど口に合うだろうか

本場アメリカの様な味付けは正直私位の年齢には辛く若干薄味なのだが…

一応バンズから手作りだったのだが氷室君はあざとくそこにも気付き
ここまでしてくれて有難う、美味しいよと爽やかな笑顔を見せつけた

あまり失恋によるダメージを受けたようには見えない


「今回半年位だっけー?」

「そうだね、別れる理由が無かったから続いてただけだし」

「…それってどうなの」


食事も終わり、一応慰めならこれがなくてはと買ってきた酒を囲みながら氷室君の恋愛事情を聞いている訳だが
やはりモテるイケメンの感覚は私と違った


「それでねー、別れた原因がお弁当なんだって」

「えっ」

「他の女が作る弁当が気にくわなかったらしいよ」

「でも自分で作って室ちんにあげるのは面倒なんだってー
わがままだよねー別れてせーかいだよ」


なるほど、確かに自分が彼女なら彼氏が家族以外の女の作る弁当を食べていればひっかかりがあるかもしれない

けれどだったら自分で作れば良いだけの話だし
週に一回は弁当じゃなくランチを食べに行こうなど譲渡案はいくらでもあっただろう

けれど譲り合う事なくただ弁当をやめろと自分の主張だけ通そうとする女はそれは面倒くさそうだ


「あ、あと○○ちんがうちに住むのも揉めたっけ」

「どう考えても弁当よりそっちが原因だね?!
てかその子をここに住ませれば良かったんじゃ…」

「それは俺が嫌だしー
室ちんの彼女と住むとか気まずくない?」


この子はどこまで我が儘なんだ
実際俺も気まずいしね、と氷室君はフォローを入れているが

氷室君のそういう態度が紫原君をダメにしてる気がする