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数日後、もう一度洞窟に訪れて見ると丁寧に葉っぱに包まれた物が入り口に置かれていた

中身は俺の羽織
何だか綺麗にもなっているようで洗われていたらしい


(この石器時代に律儀なことで…)


数日ぶりに自身の羽織に袖を通すと
後ろから声が聞こえた


「おや、あさぎりさん
こんにちは」


俺の着る服とは違い、どちらかと言うと葉っぱと形容した方が近いそれを身に付けたなまえちゃんがそこにはいた


「わー、ゴイスー…
石器時代に適応しすぎでしょ」

「服は怪我から身を守る為にも必要ですから
それに、それはあさぎりさんのですし」


そうは言っても俺の羽織を使っていた方がよっぽどマシだろうに
無理をしてそうしてる訳ではなさそうなのがまた理解出来ない


「そんなサバイバルガチ勢のなまえちゃんに服持ってきたんだけど
余計なお世話だったかな?」

「えっ、あさぎりさんが着てるような立派な服ですか?
頂けるなら大変ありがたいです、流石にまともな服を作るのはそう簡単にはいかないので」


だったら大人しくこの羽織を使えば良いのに
そんなに自分でどうにかしたいのだろうか


「これで貸し2ね」

「はい、何時か必ず返します」


俺の皮肉を受けながらも服を受け取り、そう笑顔で返された


「すごい…よく出来てますね
サイズの調整もきく」

「あのさぁ、仮にも目の前に同世代の男がいるんだからもう少し恥じらったら?」

「この緊急時にそんな事気にしてられませんよ」


緊急時でなければ恥じらってくれるのだろうか
現代には及ばないが、それでも限りなく洋服に近いそれを着たなまえちゃんは石器時代からだいぶ文明が進んだように見える


「で、なまえちゃんはホントに司帝国に興味ないの?」

「ないですね」


あまりにも即答だった


「なんで?正直なまえちゃんは司ちゃんと考え合いそうなんだけど」


こんな喜んで石器時代を楽しむような人間は司ちゃんのような分かりやすい思考を好むと思った
司ちゃんの求めるそれはあまりに分かりやすく、単純な世界

良くも悪くもこの時代によく合っている


「いえ、全く合わないですよ」


だからこそこんなにも即答で否定するのがイマイチ分からなかった


「私がわざわざ現代で不便に身を置き、サバイバルを楽しんでいたのは決して文明が嫌いだったからじゃありません」


あぁ、なるほど


「ゼロから火を起こし、泥水を濾過して…
私は自分の知識や知恵で生きる事が好きだっただけです
なので文明の発展はおおいに歓迎です
先人達の発明には敬意を払い、私たちで復活させるべきだと思うので」


単純に彼女への理解が足りなかった

俺はなまえちゃんはもっと短絡かつ単純な人間だと誤解していたようだ

彼女は単純な世界が好きなのではなく、自分で生きる世界が好きなだけで
その知識や知恵を与えてくれた先人や文明を大切にしている

だからこそ、司ちゃんのような考えは合わないのか


「それに、司さんとやらの考えでは私が一番欲しい物が一生手に入らなそうですし」

「へぇ、そんなに欲しい物あるの?」

「えぇ、ずっと欲しくてたまらないものがあります」

「なになに〜?教えてよ〜」

「ふふっ、秘密です」


どうやらなまえちゃんは俺の仲間になりそうだと確信した日だった