親不孝者の不運

「君、本当に毎日来るけど本当に暇なんだね」

「…失礼ですね」


昼下がり
こうやって昼食を届けるのが私の日課だ


「雑渡さんが来るまではお昼は一人で適当にすませたり食べなかったりでしたが
こうやって毎日きちんと食べるようになってしまったから最近太りました」

「そうか、じゃあ私のように動くと良いよ」

「それが出来てたらこうはなりません」


ご飯を食べながらの雑談
この穏やかな時間は居心地が良い


「店の周りにお花も増えてお客さんの評判も良いんですよ」

「せっかく花の苗も貰ったんだから植えないとね」

「野菜の苗だけで良かったのに、田舎ですから
いっぱいおまけくれるんですよね
でも花の世話、大丈夫です?
お客さんに変な事言われたり…」

「あのね、私はプロの忍者だよ
人の目に触れない事は十八番だから」

「隠れてお花の世話ってなんだか可愛いですね」


良い年をした人が隠れて花の世話なんて
考えただけで少し顔が緩んでしまう


「部下に見られたら笑われてしまうよ」

「さて、そろそろご飯持ってきますね」

「いつも有難う」

「いえいえ」


私と雑渡さんは変わらず過ごしている
雑渡さんは畑仕事
私は相変わらず無職

たまに一緒にお酒を飲んだりと彼とは随分仲良くなった
年の割にお茶目な彼と過ごす時間は結構好きだ


「こんにちはーご飯くださーい」


そんな日々を今日も繰り返す
いつものように店を訪ねて
いつものように二人分の昼食を受け取る


「はいはい、用意出来てますよ
しかし本当雑渡さんが来てからなまえちゃんが毎日顔を出してくれて安心するわ
前まで全然顔出さないし痩せてくし」

「面倒がってお昼あんま食べてませんでしたからね…
じゃあ持っていきま…」

「すいませーん、道を教えていただきたいんですが」


昼食を受け取ろうとしたその時
カウンターから客の声が響いた


「あれ、客?」

「あら急がないと…」

「良いですよ、すぐ出られる私行きますから
道案内だけみたいだし」

「そう?ごめんなさいね
頼むわ」


道案内の為に従業員が作業を中断する必要もない
道案内程度なら私でも問題ないだろう

しかしこの辺は田舎すぎて迷う道もないと思うのだが
親戚の家でも訪ねにきたのだろうか
民家なら地図にも乗っていない農道や獣道の先にあったりするからなぁ


「はいー、どちらまで行きたいんでしょうか?」

「えっとですね、地図だとこのへんなんですが…」

「はいはい…えー…え?」


こんな場所、道を聞くまでもない
そんな所を指された地図に視線を落とすと
首もとがヒヤリと冷えた


「あと金の場所も教えてくれるかな?」