祭りと忍者

「二人共ーお祭りに行くよー」

「おやまあ」

「祭りねぇ」


秋も深まってきた今日この頃
うちの町では今日祭りがある


「この日の為に綾部君も休みにしといたからね
雑渡さんも今日は仕事最低限でお願いします」

「まぁ作物もだいぶ少なくなったしすぐ終わると思うけど」

「くりぃむそーだは食べられますか?」

「クリームソーダはどうだったかなぁ
まぁトロピカルジュースとアイスでも買って無理矢理作れるって
じゃあ昼になったら迎えに来るねー」


田舎の祭りなので規模はしれてるがそれでも町で唯一のイベントだけあって楽しみだ


「祭りだー!ビールだー!」

「昼間っから酒とは良いご身分だね」

「祭りだし!今日はお母さんも仕事で祭りに来てるから帰りの運転は気にしなくて良いしねー
雑渡さん、焼き鳥もありますよ!」


昼間っから堂々と酒と焼き鳥を楽しんでも許されるのだから祭りとはすばらしい


「なまえさん、あれなんですか?」


ビールと焼き鳥を楽しんでいると綾部君がふとある出店を指さした


「あぁ、あれは綿飴だね
口の中で溶けるんだよ」


綿飴の機械って見ていて不思議だよね
私も子供の頃はよく見ていたものだ


「この間貰ったお金で買えますか?」

「お店全部回っても余るよ
でも折角だからお姉さんが買ってあげよう」

「なまえちゃんもう酔ってるの?」


お祭りなのだからと少し早いペースでビールを楽しみ
のんびりと回っていると次は雑渡さんが足を止めた


「なまえちゃん、あれは?」

「あー、剣道大会かー
うちの祭りの名物の一つだからなぁ」


雑渡さんが指を指したのは祭り会場に隣接している市民体育館
そこの入り口には剣道大会の文字


「うちの剣道大会って優勝したら貰えるの賞金なんですよね
こういうのでお金くれるのって珍しいから遠くから結構な人が来たりするらしいですよ」

「それ、私も参加出来る?」

「え?」

「喜八郎君も出るかい?
忍術学園は剣術も教わるだろ?」

「じゃあ出まーす」

「えっと、本気?」

「良い機会だからね」


結局二人は剣道大会に飛び入り参加する事になった

雑渡さんはともかく、綾部君は中高生の部に参加させるのに身分証は無いし
大丈夫かと不安だったがうちで入った新しいバイトという話はすでに広がっていた為難なく参加出来た

しかし恐らくこの二人は剣道自体はやっていないだろう
私自身も剣道はよく知らないがとりあえず携帯で調べ、反則事項だけ伝え
あとは他の人の試合見て感覚でいけと我ながら大ざっぱなアドバイスをした
そこは適応力の高い忍者なのだからがんばっていただきたい


(さて、忍者は現代の剣士とどんな戦いをするかねぇ)


ビールを片手に
私は高見の見物に徹する事にした



─────────



(忍者つえぇぇえ…っ!!!)


ある程度予想はしていたがやはり剣道としての勝手の違いもあるし
もう少しくらい苦戦するかと思った

しかしそれは杞憂であり、雑渡さんも綾部君も他を圧倒する強さで優勝した

綾部君、あんなに力があったのか
雑渡さんが早いのは知っていたけどあの剣道の防具をつけていてもあの早さだなんて

しかしうちの従業員二人が優勝となるとまた話が町中に広がるな
でも良い防犯効果になるかもしれない

等と考えていると雑渡さんと綾部君が何か話している
しかし二人そろって涼しい顔をしている
先ほど二人と戦った選手はえらく疲労していたのに

おや、審判まで巻き込んで一体何だ?


「えー、両選手の意向により
今から中高生部門優勝綾部喜八郎君と大人部門優勝、雑渡昆奈門選手の特別試合をはじめまーす!」

「はぁっ?!」

「お互い強い相手と戦いたいそうです!剣士の鏡ですねー!」


あいつら本気か
あの二人は出会い頭にも戦っていたがあの時の決着をここでつけるとでも言うのか

しかし忍者と忍者の対決なんて戻ってから何時でも出来ないか?



────────


「…目立ちすぎ」

「負けちゃいました」

「でもなかなか筋が良いね
少し荒削りだけどそれはこれからいくらでも磨ける」


結果はまぁ、やはり雑渡さんの勝ちなのだが
お互い忍者だからと剣道を忘れて全力で向かったのかあれは明らかに剣道の試合ではなかった
あんなに飛び跳ねる剣道の試合なんて見た事も聞いた事もない

私の心配とは裏腹に会場は大盛り上がりだったが


「この賞金ってどれくらいなんですか?」

「そうだなークリームソーダをお腹壊すまで食べても半分も使わないぞー」


そんな訳で雑渡さんは賞金十万
綾部君は五万円
彼らは大してお金も使わないのまた随分な臨時収入が入ったものだ


「なまえちゃん、あとこれ
私たちの試合は賞金出すつもりなかったけど随分盛り上がったから特別にってこれ貰ったよ」


雑渡さんの手には特別賞と書かれた封筒
一体なんだろう
まだ封の切られていない封筒をあけ中身を確認した


「…これは…ビール券!!」


商品券あたりが妥当だとは思ったがまさかのビール券だと…!
しかも結構な枚数が入っている


「これがあれば!ビールが一杯飲めます!」

「じゃあ折角だし今日はこれでビール飲もうか」

「くりぃむそーだは?」

「大丈夫!なんだかんだで飲み物なら使えるから!」

「折角のお祭りだしね」


結局このあとは散々ビールを飲み
焼き鳥だフライドポテトだアメリカンドックだをむさぼり
久々に会った昔の同級生にはニートが随分と良い生活してんなと嫌味を言われたりもしたが

やはりタダ酒は特別美味かった