▼頼られたいガの話
間に合ったらアンソロに入れたかったガの話。結局間に合わなかったわけですができてる冒頭だけ。気が向いたら書ききるかもしれない…?―――――
最初、あいつは本当に被害者だった。
その日、非番のはずの二番隊所属のメンバーを見かけた。忘れ物でもしたんだろう、と特に気に留めていなかった。けど、ロッカーに荷物を取りに戻ったとき、俺はそれを偶然見ちまった。そいつが丁度開いたロッカーから後退り、床に崩れ落ちるように座り込む様子を。
「お、おい、どうかしたのか?」
声をかけてみると、すぐにこっちを見た。反応があまりに早く、顔を見るに何かに怯えている様子だった。その理由がロッカーの方にあるんだろう、と目を向けてみると、防護服や書類のファイルがまとめられているだけの、ごく普通の荷物が入っていた。うちの三番隊の面々とは違う、真面目なレスキュー隊員そのものの内容物だ。
中に何かいたとかじゃないみたいだ。もう一度そいつに視線を戻すと、こっちに向かって指をさした。正確には、俺の足元。そこにポーチが落ちていた。花柄の模様の、ごく普通のポーチだ。口が開いていて、中身のいくつかが周りに落ちている。これは化粧品だ。アイナが持っていたものに似ていたから、なんとなくわかる。
「さ、触らない方が…!」
落ちていたものを拾おうと手を伸ばしたら、そいつが声を出して阻止した。触らない方がいい、というのは、ここの落ちているものが原因ということは確実みたいだ。
「…何があったんだ?」
あまり面識のない相手にいきなり聞くのもどうかと思ったけど、このまま放っておくこともできなかった。俺が質問をすると、踏み込んだ質問をされるのが意外だったのか、そいつは暫く黙り込んだ後で口を開いた。
「…す、少し前から、鞄とかロッカーの中から、荷物が減ったり戻ってきたりしてて」
「減ったり戻ったり?」
「最初は、ペンがなくなったけど、数日後には入ってたとか、そういうのだったんだけど、今日は、その中の…」
「この中?」
「少し前になくなった口紅が、今日になって入ってて…」
口紅、というと細長い筒状のものだろうか。もう一度足元を見てみると、ポーチのすぐ後ろにそれらしいものを見つけた。触らない方がいい、と言っていたから直接触れない方がいいだろうと、手前のポーチを横に退かしてみると、
「…………」
液体がついていた。筒の真ん中の赤を覆うように、白く濁った液体が、口紅の全体にべっとりと付着していた。
「これ、どう見ても…」
「わ、わかってる…」
「…見当はついてるのか」
「見、当…?」
「誰にやられたかってことだよ」
「そ、そんなの、知らない」
「じゃあ、本部に知らせないとな」
「な、なんで本部に…?」
「こんなの放っておくなんてさすがによくねえだろ。それまで物がなくなってたのだって、犯人が今日のみたいな使い方してたからかも知れねえ」
俺がそう言った直後、そいつの顔が青ざめて肩を震わせた。想像させるようなことを言ったのが、余計に恐怖を煽ってしまったみたいだ。
「わ、悪かった。脅かすつもりじゃなかったんだ」
「だ、大丈夫……事実かも、しれないし」
とにかく謝りたくて、頭を下げた。けど、怯えている様子に変わりはなかった。どうすればこいつが安心できるか必死に考える。この被害がなくなることが大前提だ。けど、犯人が誰だかわからない環境にそのまま居続ければ、例え被害が収まったとしても安心できないだろう。
「お前、どうする?」
「ど、どうって?」
「こんな状況でこの仕事、続けられるか?」
「……そ、れは」
バーニングレスキューの資格を取るのも、部隊に入ることだって生半可な努力では成し得ない。それに、今の二番隊はこいつ在りきでのフォーメーションが組まれているんだ、急に辞めるなんてことはできないし、こいつが即答できないのも無理はない。
「…配属、変えてもらうように聞いてみるか?」
「え…?」
「確実に変えてもらえるかはわかんねえけど、言うだけでもした方がいいだろ」
ここに来るためにしてきた努力を水の泡にするなんて、できればしたくないはずだ。ましてやこいつは何も悪くない、ただ変な奴の被害に遭ったなんていう理不尽な理由でなんて。
「で、でも、それが相手を刺激して、もっとひどくなったら…」
「そんときゃとっ捕まえる」
「相手がわからないのに、どうやって」
「確かに今はわかんねえ。けど、向こうが動いたら、誰だか分かってくるはずだ」
2020/08/16