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呟きコピペ多め

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▼9/20イベント無配

イベントの無配で置いていたPDFから。
眠っているリの夢の中に入る話です。
前にここのメモに書いた精神世界の話がベースです。
10月のイベントでリ編完結版、12月のイベントでガ編リ編を出す予定です。
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睡眠時に夢で見る内容というのは、本人が自覚していない、潜在意識を表しているという説がある。
「早く早く! 始まっちゃうよ!」
 しかし今の彼は、潜在意識にしては別人すぎるのではないだろうか。

 事の始まりは、数日ほど前に遡る。
 睡眠中の人間の脳内をVR空間として再現し、別の人間がその空間に入り、機械を通して夢の中の本人に干渉することで、悩みを解消する……というシステムのモニターをしてほしい、と連絡が来た。
 元々は、パルナッソス号に乗せた人間たちの精神ケアを行うために開発されていたそうだ。しかし、航行が前倒しになった時点で既に間に合っておらず、さらに航行自体が失敗し、移住の必要もなくなったことで近年まで放置されていたのだという。
 この連絡を受けた私はまず、別に適役がいるのではないか、と言って断った。何せ、今回そのモニターで入ってほしいと言われた相手というのが、ボス……マッドバーニッシュのリーダーをしていた、リオ・フォーティアの脳内だからだ。マッドバーニッシュでもない、ただ村に置いてもらっていただけの自分よりも、元リーダーをしていた人や、マッドバーニッシュの人たちの方が、彼のことをより知っているはずなのだから。
 しかし、向こうは既に身近な人物の検証を行い、それでもボスの脳波に波長が合う人物がいなかったのだという。知り合いを何人も巡り巡って、ほとんど接点のないはずの自分のところにまで話が来た、ということだったのである。
 ボス本人と話したことはほとんどないけれど、行く宛のなかった時に保護してもらい、バーニッシュの村で匿ってもらった恩はある。結果が出なくても助けになるのなら、と思い、承諾したのだった。
 そして今日、いざ検査を受けてみれば、どういう訳か波長が合うという判断が出てしまい、あれよあれよという間に私は正式にボスの見ている夢の中に入ることになってしまったわけだ。
「…………」
 ヘルメットのような機械を被って、起動スイッチを入れた直後、目を開くと、そこにはボスがいた。それ自体は当たり前だ。説明通りなら、ここは彼の見ている夢の中なのだから。
 しかし、このボスは明らかに様子がおかしかった。
「やっと来てくれた!」
「え…?」
 心底嬉しそうに目を輝かせて、そう言ったのだ。
 ボスというと、常に周りを警戒し感情を見せないよう無表情でいるか、バーニッシュへの弾圧に対して怒っているのがほとんどで、村の子供達の前でさえ、軽く微笑む程度しか見たことがなかった。自分の知っている範囲とはいえ、ほとんどの元バーニッシュたちも同じ認識のはずだ。こんな表情豊かな顔をすることなんて今まで一度もなかったのに。マッドバーニッシュを辞めてから、性格が丸くなったのだろうか。それにしては、だいぶ性格が変わりすぎではないだろうか。
「遊ぼう!」
 そして、急に私の手を引いて走り出した。転びそうになりながらもついていくと、その先には、メリーゴーランドやジェットコースター、観覧車などの数々のアトラクションが設置された、遊園地のような光景が広がっていた。
「あれに乗ろう!」
 走る速度を緩めることなく、そのまま目的のアトラクションへ向かっていく。
 しかし、待ってほしい。まず状況を確認したい。どうしていきなり私を連れて、遊園地で遊ぶのだろう。ボスには誰かと遊園地に行きたいという願望でもあったのだろうか。いや、さすがにそんな具体的な内容がそのまま夢として反映されるのも変な気がする。
「あ、あの、ボス、まず説明を…」
 意を決して声をかけてみる。すると急に足が止まった。
「ボスじゃない、リオ」
 こちらに振り返った彼は、いつもの怒っているような無表情で、そう言った。
「り…お?」
「そう。リオ」
 私がボスを名前で呼ぶと満足したようで、その表情は最初に顔を合わせた時に見た、子供のような笑顔に戻っていた。その有無を言わせない威圧感が普段より増して恐ろしく思えて、とても現在の状況を聞いていい状態ではなかった。
 このまま彼とともに遊んでいれば、何かがわかってくるだろう。そう思いながら、最初のアトラクションへ向かった。



 両手で数えきれないほどの数のアトラクションを回って、疲れすぎて足が棒のようになってきた頃、次に向かった先は観覧車だった。ようやくゆっくりと休める乗り物を選んでくれた。
 ボスもさすがに疲れてきたのだろうか、ゴンドラの中に入ってから、窓際に寄りかかって外を見ていた。
「楽しかった?」
 感想を聞かれるということは、ようやくここでの遊びの時間が終わるのだろう。私が肯定すると、ボスは外を眺めたまま、また子供のようににこにこと笑った。
「ずっと遊びたかったんだ」
「遊園地で、ですか?」
「遊園地もそうだけど…今までは、外に出られなかったから」
 どういうことだろう。ボスには懲役や禁固といった刑は出なかったはずだ。聞いた限りしか分からないが、現在は監視付きとはいえ外に働きに出ているという話なのだから。
 とすると、これは心境の問題、今まで表に出せなかった感情…ということだろうか。
「少しは遊んだりしないと、もたないですよ」
 私がそう言った直後、ボスは急に身体を起き上がらせてこちらを見た。驚いたような、困ったような顔をしていた。その様子に、私は何かおかしいことを言ってしまっただろうかと、少し不安になった。
「…遊んでもいいの?」
「当たり前じゃないですか」
 とはいえ、一度言い出したことを曲げるのも変に思うだろうと、私は思った通りにそのまま返答することにした。ボスは再び複雑そうな顔をした。そして暫く俯いた後、こう言った。
「来てほしいところがあるんだ」



 観覧車から降りた後に向かった先は、遊園地の入り口の横にあった階段だった。ボスが階段を下っていくのを、後ろからついて行く。散々動き回った後での階段移動は、下りとはいえさすがに堪えたけれど、先を歩くボスが気を遣っているのか、本人も疲れているのかスピードを落として進んでいるため、無理のないペースでついていくことができた。
 もう何階分降りたのかわからなくなった頃、ステップの隙間を見下ろすと階段の終わりが見えてきた。最下層の真ん中には鳥籠のような檻があり、その中には、見覚えのある姿が見えた。
「…ボス…!?」
 間違いなく、ボスだった。腕を拘束された状態で、檻の中で座っていた。
 しかし、目の前を歩いている彼も、性格はだいぶ子供っぽいとはいえ、見た目も声もボスそのものだ。ここはボスが見ている夢の中のはずなのに、どうしてボスが二人いるのだろう。
「遊びは終わったか」
 腕を拘束されたボスがそう言う。その目の前で、私の前を歩いていたボスは立ち止まる。
「早くこれを解いて外に出せ」
 鉄格子の向こうにいるボスは、こちらを睨みつける様子も喋り方も、私が今まで見ていたボスそのもののように思えた。こちらを敵視するような鋭い視線は、自分に向かっていないとはいえ、近くで見ているだけで寒気がするくらいに怖い。
「僕、やっぱりもっと遊びたい」
「馬鹿なことを言うな。そんなことをしたらどうなるかわからないのか」
「でも、また遊べなくなるのは、嫌だ…!」
 話を聞いていて理解した。観覧車の時に言っていた、今まで外に出られなかったという発言は、この子供っぽいボスがここで受けていたことだったのだ。彼はずっとこの中で過ごし、代わりに今、檻の中にいるボスが普段外に出ていたとすれば辻褄が合う。それはまるで、ボスの遊びたい≠ニいう感情を奥底の檻に閉じ込めて、普段の毅然とした態度のボスを維持しているかのように思えた。外に出られないはずの彼がどうやって入れ替わったのかはわからないが、この二人はどちらも紛れもなく、ボスの感情だということはよくわかった。
「…わかった」
 そう言いながら、檻の中にいるボスは腕の拘束を引きちぎった。あのボスなのだから、この程度の拘束は自力で外せてもおかしくはないだろう。目の前の鉄格子すらも自力で歪ませて出てきそうなくらいだ。
 むしろ、今まで大人しく拘束されていた方がおかしいのではないか。そう。ここにいつものボスがいること自体、そもそもおかしかったのだ。私はそれに気づいていなかった。気づくのが、遅すぎたのだ。
「だったら、ここで遊べばいい」
 その手は何故か鉄格子をすり抜けて、目の前に立っていたボスの手を掴んだ。
 嫌な予感がして、彼を檻の中に戻すものかと、私は咄嗟にもう片方の手を掴んだ。けれどそのまま一気に腕を引かれ、自分が床に倒れたと気がついた時には、私は鉄格子の内側にいた。
「ここで二人でいれば、ずっと遊んでいられるだろう?」
 さっきまで檻の中にいたはずのボスが、いつの間にか鉄格子の外に立っていた。そして一緒にここに来た彼は、もう一人の自分が階段を登っていく様子を呆然と見ていた。
「…そうだね」
 ここから出せと声を荒げるでもなく、彼は落ち着いた声で呟いた。
「ここにいれば、君とずっと一緒に遊んでいられる」
 確かに、ボスの言う通りだ。しかしここには遊具も玩具も何もないし、遊ぶといっても内容は限られる。それに、私に関していえば、今被っている機械を止めてしまえば、この夢の中から退場することが可能だ。けれど、それを彼は知らない。
「君はどこにも行かないよね?」
 ここで機械を止めれば、彼はまたこの場所で一人きりになってしまう。それはボスを見捨てるのと同義だ。ここは夢の中なのだから、いつか目覚める時がくるはずだ。それまでここにいるだけだ。元々ボスの悩みを解消するために夢の中に入ったのだから、ただここで遊び相手をするだけなら、問題ないだろう。そう言い聞かせて、私は彼の問いに頷いた。

2020/09/21

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