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もう戻れないと自分に言い聞かせるために、靴を燃やした。数日ぶりに燃やせたことに安堵した。

最初、自分にこの力があることを知った時、僕は恐怖した。ニュースで見るバーニッシュは凶暴だから、すぐに回収しなければならなくて、回収される現場の映像も何度も見たからだ。だから当然、僕も回収されるのだと思った。
途端に、今までの生活がどれだけ恵まれていたか理解した。何も考えずにいられることがどれだけ幸せかを理解した。突然変異だと聞いてはいても、自分の身には起きないとばかり思っていた自分は、どれだけ愚かだったかを理解した。
そして常に恐怖が付きまとうようになった。誰かが僕を見ているんじゃないか。誰かが通報するんじゃないか。誰も信じられなくて、家族も、友達も、凡ゆる人から距離を置いた。もし僕がバーニッシュだと知られたら、今までのようには接してもらえなくなって、通報するに決まっている。
それでも、燃焼衝動は抑えられない。ある程度我慢はできても、燃やさないと苦しくて息ができなくなってくる。誰かが見ているかもしれないのに、通報されるかもしれないのに、やめられない。
だから、僕は、

「…………」

疲れてしまった。
生きるだけでこんなに辛いなら、もう死んだ方がましだと思った。
バーニッシュになった誰もが通る道なんだろう。自覚した途端、絶望して、苦しくてもがいて、その苦しみから逃れるために燃やす。その繰り返し。そして最後には見つかって通報されて、回収される。
僕にはそれが辛くて辛くて仕方がない。ただ生きることが、苦痛で仕方がない。だから、逃げるしかないじゃないか。この世界から、この身体から。

「…………」

足を踏み出す。青空を映していた視界が、ぐるりと回ってコンクリートジャングルに変わる。支えるものをなくした身体が、真っ逆さまに落ちていく。
風は冷たいのに、身体が、熱い。
死ぬのなら、少しくらい燃えても、いいだろうか。きっと燃えたら何も残らないだろうし、誰も困らないのだから。

身体を思うままに燃やして、風も何もかもが気持ち良くて、ようやく死ねる、と思った頃、遠くに、眩しい光の筋が見えた。こちらに向かってきらきらと光りながら、飛んでくる。
お迎えが来たんだと思った僕は、安心して目を閉じた。





「…………」

最初に見えたのは、目を閉じた誰かの顔だった。
温かい何かが僕の唇に触れて、そこから身体に熱が入ってくる。不思議と違和感はない。身体を燃やしていた時のように、心地良い。

「……あ、」

唇に触れていた何かが離れるとともに、近くに見えていた瞼が、顔が少しずつ離れていく。少し寂しいと思ってすぐ、閉じていたその目が開かれて、僕と目が合う。

「良かった、大丈夫みたいだね」

優しく微笑んで、僕の髪を撫でた。
 
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