@長編Through The Glass #16
「ダンデくんすまないね。帰宅中に呼び出して」
「いえ、ちょうどシュートに着いたばかりでしたから」
「それはよかった。では本題に入りましょう。ターフジムでの試合は観たかな?」
タクシーから遠くに見える観覧車を視認したのと、電話が鳴ったのはほぼ同時だった。
突然の呼び出しは珍しいことでもなく、目的地をローズタワーに変更してダンデは委員長の部屋を訪れる。
「ええ。彼女が最初に突破するとは驚きました。ダイマックスもしませんでしたし」
「興味深いジムチャレンジでしたね。今この瞬間も、テレビやネットは彼女の話題で持ち切りだ。しかし…」
まさか話題が例の少女とは。
肩透かしを食らったような気分だったダンデも、委員長の不穏な言葉に気を引き締める。
「しかし、とは…?何か問題でも?」
「彼女に関する問い合わせがないのだよ」
「……」
まどろみの森で発見された記憶喪失の少女。未だに警察からもこれといった情報はない。
けれどガラル中が注目するイベントで、公に姿を見せれば?
「ジムチャレンジに参加すれば自分を知っている人が、と彼女自身言っていたそうですね」
「…数時間ほど前に突破したばかりです。これからでは?」
「わたくしもそう思います。だからキミに聞きたくてね」
ローズ氏曰く、目星を付けたエリアへ重点的に放送すれば、家族や知人から連絡が入る可能性も必然的に高まる。
よって地域をある程度絞り込みできないかと、ダンデはわざわざタワーの一室まで呼ばれたのであった。
「キミは彼女と親しい。普段の様子から、どこか推測できる所は?」
「と言われましても…」
ダンデ自身これまでに何度か探っているものの、芳しくない。
シュートシティでのショッピング、ナックルシティが見えるワイルドエリアでのキャンプ。
どこへ連れ出しても、初めて訪れたような反応しか彼女は見せなかったのだ。
「彼女は訛りもありませんし、思い当たる所は特に…」
「訛りがないなら都心部出身かもしれないね?」
「どうでしょう。シュートシティにもエンジンシティにも馴染みはないようでしたが」
田舎と違い、多くの人が移住する都会では特有の言葉遣いも徐々に失われつつある。
独特のアクセントもない滑らかな彼女の話し方から辿り着くのはシュート・エンジン・ナックルだが、前者2つということは無さそうだ。
「それではナックルシティと…念のためキルクスタウンも視野に入れてみましょうか」
ジムチャレンジに関する映像は日々更新されていく。
今は彼女一色のテレビ番組も明日早々には誰かへと代わり、肝心の彼女を知る誰かに届かなくなるかもしれない。
「ありがとうございます。俺はそこまで考えていませんでした」
「テレビマクロから特集について一報があった時、ふと思ったのですよ」
それを危惧した委員長の迅速な行動にはダンデも舌を巻いた。
ただし彼女の家族が名乗り出たらば、代理保護者はお役御免となる。それは少々寂しいような気が―――
「彼女がいったいどこから来たのか。知らなければいけない、と」
とある日の夕暮れ、都会にて。