セイレーンの泪


@長編Through The Glass #17 その朝

「ラ……」

朝食をいただいた後、あたしとヌメたはバウタウンを目指し出発した。
まだ早朝と呼ばれる時間ゆえか空気は冷たく…というか朝靄の中を歩いてるので普通に肌寒いですはい。

「ヌメた?」
「……リャラメ……」
「?」

周囲には誰もいない。だからヌメたの小さな声にもすぐ気づいた。
見下ろすと彼はどこかを見つめていて、視線の先を素直に辿る。

「…ん〜…?……おお〜!」

うっすらと浮かんでいるのは、大口を開けたドラゴンと厳ついお城。
全容を確認できなくてもわかる。あれは、

「ナックルシティだ」

写真や映像では何度も見たことあるけど、やっぱり実物を目にすると違うわね。
百聞は一見に、ってやつ。こんなに離れた場所でも強そうな感じ?するもん。
やっぱり同じドラゴンタイプとしてヌメたもあのゲートが気になっ

ちょうちょさん ちょうちょさん

「あっ」

あなたはいったい どこからきたの?

「えっ」

急いで辺りを見渡す。やっぱり誰もいない。あたしたちだけだ。
それじゃあいったいどこから?しかもこの歌、まどろみの森で?

わたしはしらない たずねもしない

「ヌメリャンラ」
「…ヌメた…?」
「ヌメリャララ」

でも、なんだろう。不思議と恐怖はなかった。
風に掻き消されてしまいそうなほどの、かすかな声だったからかもしれない。

すみかが あったこともなし

寧ろ悲しいような、意味のわからない切なさに胸が締め付けられて。

「ランリャア、メララァーヌン」

ちょ…ちょさ… ちょう…ょさ…

―――だんだんと消えて行く

…なたはい…たい どこ…らき…の?

―――遠く遠くの彼方より

わ…しはしらな… た…ねも…ない

―――せめてと祈り仰ぐ

すみ…が …ったこともな…

―――無情にも風に攫われて

「ヌメリャンラ」

…ょう…ょさ… ち…う…ょさ…

―――もう届かない

「ヌメリャンラ」

あ…た……っ…い …こ…らき……?

―――もう届かない

「ヌメリャンラ」

…た…はし…な… た……もし……

――― もう、届かない ―――

「ヌメリャンラ」

す…か… あ……こ…も……



「ヌメリャンラ」

遠ざかって行く歌に、なぜか涙が一粒こぼれた。

「泣いてないよ」

声は小さくなって、もう何を言っているのかわからない。


「欠伸しただけ」


とある日の霧深い朝にて。


2022.12.27