いいなあ。それかわいいなあ。
「ナナシ、何してるんだ?こっち来いよ」
「あたしはいいの」
「どうしたんだ?」
「(ああ〜)何でもないです」
「「?」」
もうっ。ホップが声かけるから、動いちゃったじゃん!せっかくじっくり眺めてたのに!
再び移動して、ある地点で止まったあたしを、同じ色の瞳が不思議そうに追う。
いやほんと気にしないでください。兄弟水入らずで楽しんでください。
「なんか変だぞ、さっきから」
「そんなことないよ」
「ナナシくんはもしかして人見知りなのか?」
「ぜんっぜん!違うぞ!」
なんでホップが力説するのよ。まあ人見知りじゃないけど。
そしてダンデさん、早く前向いてください。はい、回れ右〜
「ナナシくん、こっちにおいで」
「(ぐぬぬ…)ヌメたと一緒にいますから」
「俺が苦手か?」
「え!?いやそんなんじゃないです!」
なぜそうなる!?そもそも今日会ったばかりの人に、苦手とかある?
いや、あるか。生理的に無理とかはあるもんね。
でもダンデさんは違いますからね。そんなんじゃないですからね。
「あたしはヌメたと日向ぼっこしてるだけですから」
「そこ日陰だぞ」
ホップこのやろう。いいツッコミです。
そうだね、あたし木の下にいるね。ばか。
「どうした?何か嫌なことでもあるのか?」
「え、あ」
あーあ、とうとうダンデさんがこっちに来ちゃった。
クッ…密かに観察しようと思ってたのに。ものの数分でミッション失敗です。
「えーっと…」
「?」
「んっと…」
「なんかナナシらしくないぞ」
どうしよう。確かにここまできて、隠し通すのも感じ悪いよね。
でもいいのかな。柄にもなく遠慮しちゃう。…ええい、やってやらあよ!
「あ…あの、ですね……」
「つやつや〜!滑らか〜!すべすべ〜!」
「もっと早く言ってくれてよかったんだぜ?」
マジすか!いいんですか!心広すぎませんか!
テンション爆上がりなあたしが夢中になっている物、それは。
「そんなにマントを見たかったのか?」
「は!い!!」
「テンション高すぎなんだぞ…」
ホップは呆れたようにあたしを見ている。でも仕方ないじゃん。
だってさあ。
「このマント、すっごくかわいいんですもん!」
「かわいい?」
「かわいい…?」
腕を組んで唸るダンデさんとホップ。兄弟ですね。動きがシンクロしてる。
そうね。男の人にはわからないでしょう。Kawaiiというこの魔法の言葉が。
「“かわいい”っていうのは、素敵なものとか、キュートなものとか、好きなものとか、全部に使えるんですっ」
「そうなのか」
「ふーん」
納得したようなしてないような雰囲気ありありだが、今のあたしにはそんなの関係ナシ。
一目で心奪われたこのマントにもうメロメロ。
まずこの色がイイ。深い赤。ダークレッドというか、マルーンというか。とにかくたまらない。
次に素材。いかにも高級感溢れる滑らかさ。実際に触ってみますね?すべすべです!スベスベマンジュウガニ!(?)
おまけに逆立てるように撫でつけるとふんわりする。なにそれ!何毛!?ねえ何毛なの!?
そして何より、
「このデザインがイイ!!」
「ちょっと落ち着けよ…」
なによ!このKawaiiがわからないなんて!
男の子は静かにしててください!
「スポンサーだからな」
「へえー」
あ、これ企業ロゴなんだ。やばい。めちゃ頭悪い発言した。
まあ記憶喪失ってことになってるからセーフ。ということにしておこう。
それにしても…随分とオシャレな企業ロゴだなあ。
一つ一つ眺めても、なんというか良い意味でカンパニーらしさがない。
あたしの世界だと、大手は基本お堅いロゴだったからなあ。
「なんか、ガラルの企業ロゴってオシャレなんだね」
「他だと違うのか?」
「え?ああ、ほら。○×コーポとか、他の地方から来てる会社とテイスト違うじゃん」
「あー確かに」
あっっ…ぶな!ポロっと言っちゃったけど、ホップは特に勘付いてないようだ。
君が無邪気な良い子でよかった。どうかそのままでいてね。
「ナナシくんも、チャンピオンになれば自分のマントが持てるぜ」
「うーん。でもそれだと、好きに見られませんよね。自分の背中見えないし…」
「それはそうだが…」
困惑、という言葉がピッタリなダンデさん。すいません、変なことばっかり言って。
でもあたしは別にマントが欲しいわけじゃない。
ちょっとうそ。このマントは欲しい。だってかわいいから。
でも、やっぱり、自分のマントが欲しいわけじゃないんだよなー?
「…あ。もしかして」
「?」
「ダンデさん、ちょっと羽織ってみてください」
「ん?ああ」
慣れた所作で、バサリと華麗に纏うダンデさん。
これだ!やっぱりこれですよ!
「ダンデさんの髪色とぴったり!」
紫色の長髪に、ダークトーンの落ち着いた赤。
これだー!このコントラストが素敵だったんだ!
「この状態が一番かわいいです!」
「ハハッ、かわいいか。初めて言われたぜ」
満更でもないようで、ニコニコしている。
かわいいって言われるの嫌いな男の人多いですけど、嫌がらないんですね。好き。
「あたし、紫も赤も好きだから。そのコントラストが一番好きです」
「…そうか。ありがとう」
「紫と赤って意味なら、俺がチャンピオンになった時もそうだぞ!」
「確かに…!ホップ、その時は後ろ姿見せてね!」
いっぱい写真撮ろ!あとせっかくなら髪も伸ばしてね!長い方が映えるから!
ってダンデさんとオソロになるじゃん!やだ素敵!ぜったい写真撮ろ。
「ンヌ゛ヌヌ…メリャ゛ッ!」
「なんだ!?」
「うわー!ヌメたがアニキの髪に!!」
ぎゃー!ダンデさんの髪の毛ハムハムしとる!
このコなにしてんの!?
「ちょっ、ヌメた!ペッしなさい、ペッ!」
「ムンヌ…ムムンム…」
「おい、離れろよ!」
「いったい何が起きているんだ…」
どうやら痛みなどはないらしい。ダンデさんはキョトンとしている。
片やあたしとホップはヌメたの反乱(?)に大慌てだ。
ぺちぺち叩いたり、引っ張ったり、怒ったり。
でも彼は負けずにもっしゃもっしゃしてる。
その強靭な意志はなんなの?おいしいの?
「もしかして、嫉妬したんじゃないか?」
「いや髪の毛食べられてるのに冷静ですね!?」
あなたのパープルヘアですよ!犠牲になっているのは!
さっすが俺たちのチャンピオン!そこに痺れる憧れ…
なんて考えてる場合か!あたしのばか!
「君が俺のことばかり褒めるから、きっと妬いたんだろう」
「そんなことあります!?」
「あるぜ。ポケモンも嫉妬するさ。特に、トレーナーのことが好きであればあるほど、な」
「好きであればあるほど…」
「ヌメた!アニキの髪離せよ!」
「ンムンヌンヌン…」
なるほど?ヌメたをチラ見すると、遠い目で口を動かしてる。
無心ですか。やっぱおいしくないんじゃん!
ってことは、ガチで嫉妬からくる腹いせってこと?
そんなジェラシーありかよ〜好き。
「ヌメたの紫が一番だなー」
「ンヌンヌン…ヌ?」
「まぁるいボディのパープルは最高だなー」
「ヌンム…」
「でも一番で最高にかわいいあたしのヌメたがいないなー?」
「ンヌ!?」
「一番で最高にかわいくて良いコちゃんなあたしのヌメたはどこかなー?」
「……メリャ!」
元気よくお口を開いてあたしの胸にダイブ。はい、服濡れた。仕方ないけど。
死んだ魚の目をしていたヌメたはキラッキラのおめめであたしにかわいさアピール。
ほんとにジェラってたのか〜そうかそうか〜
「かわいいやつめ」
「アニキの髪ビッチャビチャだぞ!」
「終わったか?」
「アニキも冷静すぎるんだぞ!」
この後、謝らないヌメたの代わりにごめんなさいして、ダンデさんの髪をドライヤーで乾かした。
ついでに梳かしてお手入れもした。ホップにはヌメたと一緒に怒られた。
「やっぱりダンデさんの紫も好き」
「フ…これはヌメたも苦労するな。わかるぜ」
「?」
「メ゛ーァ!」