さてさて。めでたく年も明けた本日、元旦。
初めてのお正月を迎えたあたしは、キッチンで大変なことに気づいたのである。
「ダンデさん、お餅が欲しいです」
クリスマスから年末にかけてバタバタしてたから、お餅買うのすっかり忘れてた。
でも外には出たくないし、もっと言うと自分で焼くのもめんどくさい。
ならどうすればいい?
誰かにやってもらうしかないでしょう。
「オモチ?」
だってお餅のないお正月なんて、ヌメたのいないあたしよ!
…うん、全然上手いこと言えてないな。
とりあえずありえない。だから調達するしかない。
ダンデさんが。
「お餅です」
「オモチ…」
「…焼く餅のことです」
「ああ!」
ポケモン以外、こと食に頓着しないダンデさんは、あたしの言葉を繰り返してる。
もしかして“お”って付いただけで、彼の中では全然別の物体にチェンジしているのではないだろうか。
まさかなと思いつつ補足すると、分かったようでポンと手を叩いた。
ええ…マジでお餅=餅ってならなかったんですか?応用力…
「しかし急にどうしたんだ」
「だって焼く餅好きなんですもん」
混乱されると困るので、“焼く餅”に統一して話すことにしよう。
言いにくいな!
早くこの人に食材の語彙力が身につきますように。
「だから、ダンデさんにいっぱい焼いてほしいんです…ダメ?」
ちょっと寂しそうな笑みを浮かべつつ小首を傾げて…はい、完璧です。
この角度が一番かわいいんだよね。
身長差で上目遣いになるのも計算済み。
あたし自慢のおねがいスマイル。
「!!!」
ダンデさんに こうかは ばつぐんだ!
ちなみにホップにもキバナさんにもエトセトラにも効果抜群。
大多数のメンズには効果抜群なんだよね。内緒だけど。
「なるほど、わかった」
「やったー(ってなんでソファに座るんだ?)」
お餅ゲットだぜ!と喜ぶあたしを置いて、どっかり腰を下ろすダンデさん。
休んでから買いに行くってこと?
まあ売り切れたりはしないだろうけど…
「おいで」
お願いしている手前、素っ気ない対応は止すべきだ。
大人しくポンポンと叩かれた膝の上に座ると、後ろからすっぽり包み込まれた。
ええ…いちゃつくのはあたしがお餅食べ終わってからにしてくださいよ…
「新年早々、随分とかわいいおねだりをするんだな」
「え?あー…そうですか?」
よくわからん。
お餅焼いてくれっていうのは、かわいいおねだり、なのか?
まあ、ダンデさんは価値観も迷子になってることあるからなあ…
「まさかナナシから言われる日が来るなんて…驚いたが、嬉しいぜ」
「え?あー…そうですか」
なるほど。頼りにされたのが嬉しい、ってことか。
ダンデさんは意外と世話を焼きたがるタイプだ。
でもあたしは基本何でも自分でやる方。
だから前に『もっと頼ってくれないか』なんて言われたっけ。
あの時のしょんぼりダンデさん、かわいかったな。
「じゃあ、いっぱい焼いてくれますよね?」
振り返りながら、ダメおしのキュートスマイル。
ダンデさんは既にダメージを受けている!
つまり破壊力は二倍だぜ!
というわけで、早くお餅買いに行ってください。
「っ…そんなにおねだりしなくても、いっぱい“やいてる”ぜ」
「(ん?いっぱい焼いてる?)」
「ナナシが気付かないだけで、本当はいつも…ホップにさえ妬いてしまう」
あっ
「(やきもち違い!)ダンデさん、そっちじゃないです」
「なのに自分から妬いてほしい、だなんて…」
「ダンデさん!違います、そっちのモチじゃないです!」
危ない流れになってる!
というか厄介な間違え方するなこの人!
腕の中から逃げ出そうと抵抗するも意味無し。はい、いつものパターン。
でもあたしが暴れ出したからか、不思議そうに覗き込んできた。
「そっちのモチじゃない?」
「あたしが言ってるのは、焼く餅です!や・く・も・ち!」
「ヤキモチのことだろう?だから妬いてるじゃないか」
「んもう!そっちじゃないですって!白くてよく伸びる食べ物の方ですよ!」
もおおおおおう、なんですぐ通じないんだよ!
第一、いっぱい嫉妬してください♡ってどんなお願い?意味わかんないわ!
しかもそれでよく了承したっていうか、カワイイオネダリに変換したな!?
ダンデさんの方向音痴!方向音痴モンスター!
「フフッそうか。食べ物、か」
「(長かった…)わかりました?」
「ナナシにしては珍しく下手な嘘をつくんだな…♡」
いやなんでだよ!
この方向音痴!価値観迷子モンスター!
「ちょ人の話聞い…ぅむっぅ、っ〜〜♡」
なにやらスイッチが入ってしまったらしい。
反論しようとしたらがっつり口を塞がれた。
この人のキス、上手いってわけじゃないのに…ないのに!
「ん、目がもうトロトロになってるぞ♡」
「は、ぁぅ…♡ だ、からぁ、ちがうんで、すってばぁ…♡」
「相変わらず素直じゃないコだ♡」
素直とか素直じゃないとか、そういう問題じゃありません。
でも結局、気持ちよくなってきたあたしは潜り込んでくる手にされるがまま。
これじゃあお餅食べらんなくなっちゃうのに!
「知ってるか?年が明けて最初にするセックスは“ヒメハジメ”と言うらしいぞ♡」
なんでお餅より姫始めを記憶してるんですか!
ダンデさんのえっち!破廉恥モンスター!
「これがオモチ…ん、モチハダなんて言葉もあるぞ?ふむ…ナナシはモチハダだな!」
「ええ…?ああ…そうですか……」
スマホを見ながらキャッキャしてるダンデさんに対し、あたしは完全グロッキー。
常に手加減を知らないこの人は、毎度毎度文字通り抱き潰すのだからほんと身体が持たない。
それでも最近は意識があるから、少しずつ体力は付いてきてるんだろうなあ…ハハッ。
「しかし見たことないぜ。ガラルには無いんじゃないか?」
「ええ…」
結局そういうオチ?
にしても“姫始め”があって“お餅”がないガラルの文化なんなの?
ピーマンめちゃ苦かったりするし。謎。
「すまなかったな」
「…?」
「オモチ、食べたかったんだろう」
「それは、まあ…」
「勘違いして襲ってしまった」
「それは、まあ…いつものことですし…」
うん、悲しいことに慣れてきた。
ダンデさんマイペースなんだもん。
一度決めたら、もうそれ以外見えなくなる。
だから無敗記録を重ねてこれたんだろう。
まあ、ある種不器用な人よね。
「お詫びをしよう。何がいい?」
「んー…」
お餅は調達してもらうことができない。
なら代わりに食べたいお正月の…いや特に無いな。
それにお餅が存在してないなら、他のだってねえ。
「じゃあ…今日はこのまま…ゴロゴロしましょ…」
「ずっと寝てるということか?」
「そんな感じ…とりあえず今は寝て…起きたらみんなにご馳走あげて、お手入れして…」
せっかくの休みが勿体ない!っていう人もいるだろうけどさ。
こういう時間の使い方、あたし嫌いじゃないんだよね。
「…みんなでゴロゴロして…イチャイチャして…ダラダラするの…」
だって、かなり贅沢なことじゃない?
無駄に思えるようなことに時間を割く、っていうのは。
そしてその精神的時間的余裕がある、っていうのは。
特にダンデさんは休みの日も動き回ってる。
元々の性分もあるだろうけど、365日のうち、1日くらいはいいんじゃない?
「…いっしょに……」
あー無理。めっちゃ眠くなってきた。クッタクタなんだもん。
返事は聞いてないけど、もう限界。寝るよ寝る。
はいおやすみなさい。
「ナナシ」
「…ぁぃ…?」
「ハッピーニューイヤーだぜ」
「ぁぃ…」
クスクスと笑っている声がする。
大丈夫ですよ、起きたらちゃんとあたしも言いますから。
とりあえず気持ちだけ返事しておきますね。
ハッピーニューイヤー、ダンデさん。
あなたにとって良い年になりますように。