おまわりさんコッチです


「エンジンシティは広いねえ」
「メエ」
「ユニフォーム高かったねえ」
「ヌエ」

ソニアさんと別れ、あたしはヌメたと散策していた。
エントリーの前にお店やら街並みやらを眺めてみたかったのだ。
偶然入ったユニフォームショップの値段にビビッて逃げてきたわけではない。決して。

「えーっと…ジムはあっちだ」
「ラン!」
「ヌメたくんやる気ダイマックス〜」

こうして見ると独り言の多い不審者だが、ポケモンを出している人も多いので問題なく溶け込んでいる。
なんかいいなあ、穏やかで。あたしの所じゃ街中で連れられる動物って犬くらいだったし。

「うわーん、どうしよう!」
「(面倒ごとの予感…)」

さてさて、陽も傾いてきたことだし、いい加減エントリーを…と歩いていたあたしの耳に届く子供の泣き声。
これは絶対お使いになるやつだ。でも時間的にやばそうだしなー。
ごめんね坊や、優しい誰かが話を聞いてくれるよ…ホップとかユウリとかホップとかね。

「ぼくのチラーミィがいなくなっちゃったよー!」
「(ホップかユウリが見つけてくれますように…)」
「うわわーん!ひどいよ、おねえちゃん!!」
「(まさかのご指名!?)」

シレッと通り過ぎようとしたあたしは思わず立ち止まった。
立ち止まるしかないじゃん!だってワンピの裾しっかり握ってんのよこの子!?

「ボク、悪いんだけどおねえちゃん急いで「わああーん!!!」

やばい。盛大に泣き出したぞ。これあたしが虐めたみたいになってる?
違います通りすがりの無実です!

「ええええ…ちょ、ちょっと君さ、急に「え?チラーミィ探すのてつだってくれるの?」
「そうは言ってな「ありがとう、おねえちゃん!」

こ、この子やるな…!反論の余地を与えず、キラキラとした瞳で見上げてくる。
というかウソ泣きかよ!プロかよ!

「ぼくのチラーミィ、好きなのは―――」



「水浴びと指笛ねえ…」
「メエ…」

はい負けました。
ピュアボーイ(偽)に送り出され、仕方なくそれらしい場所を目指し歩く。

『水がたまった場所があればきっと潜んでるよ!』
「そこまでわかってるなら自分で探せると思うの」
「ンメ、ンメ!」

力強く同意するヌメたも、さすがに幼い子への威嚇はできなかった。
結局一緒に押されるがままヌメたレーダー(またの名をお水レーダー)を駆使して迷子の困ったちゃんを探す。

「メリャ!」
「ここ〜?ヌメた、ここエンジンジムだよ」
「リャンラ!」

ん?少し奥まってるけど、確かに噴水が設置されてる。
なるほど、距離的にも近いし、隠れている可能性はありそうだ。

『ぴゅげーって変な声で鳴くから、きこえたら指笛で呼んでみて!』
「ヌメたくん、ここで問題発生です」
「ヌン?」
「あたし指笛できないんだなー」
「ンエエ…」

そんな顔しないで。あたしだって好きでできないわけじゃないのよ。
しかしどうしたもんかな…代わりに吹いてもらう?誰もいないけど。

しゅげー

「(あ、これが変な鳴き声ってやつか…!いちかばちか!)ヌメた、うたう!」
「メラア!?」
「多分いるからお願い!ヌメたの美声、お願いします!」
「ンメメ…ッ…。…ヌ〜ン〜メラア〜ラ〜ン〜〜」
「(あっマジで歌ってくれるんだ)」

完全にノリだったけど、意外と自信満々に歌い始めてるぞ。
効果あるかわかんないけど。

「ラァ〜メェ〜ン〜〜♪」
「(ラーメンってガラルにもあるのかしら)」
「ラーメン!?」
「らっ!?」
「リャァ゛!?」

ザパァと大きな音がしたかと思うと、噴水の中からおっさんが出てきた。
もう一度言う。噴水の中からおっさんが出てきた(しかも着衣で)

「いやはや驚いた、まさかヌメラがラーメンを歌詞にするなんて」
「驚いたはこっちのセリフなんですけどっていうかラーメン歌詞じゃないし」
「ェ……」

ヌメたなんかビックリしすぎて完全に固まってる。
あたしも心臓バクバクしすぎて何を口走ってるのやら。

「あの、あれなんで、あたしたちは迷子のチラーミィを」
「チラーミィ?いやわたしはおじさんだよ!」
「はい」

見りゃわかるわ。360度どこをどう見てもただのおじさんだよ。
いやこんな所で水浴び(?)してるおじさんはただのおじさんじゃない、

変 な お じ さ ん だ !!!

「おまわりさん!いやセキュリティー!?リーグスタッフ、スタッフゥー!!!」



「わたしは…ただの、ただのおじさんなんだ…。水場が大好きな普通のおじさんなんだよ…」
「普通のおじさんは公共の場にある噴水に人目を忍んで入らない」
「キミってハッキリ言うんだね……」

若干の距離を取りつつ、落ち着いたあたしは話を静かに聞いていた。
どうやら度々ジムにお邪魔してはこっそり水遊びをしているらしい。うん、ドン引きだな。

「みんなにナイショでの水浴び…バレてしまったようだね…」
「寧ろよくここまで誰にもバレませんでしたね」
「ンメ」
「時間の問題だったと思いますよ」
「ンメ!」
「キミたち束になって責めないでくれ…おじさんこれでも繊細なんだから…」

服装から察するに、社会的地位やら何やらはそれなりにおありのようだ。
そんな人が内緒でコッソリというのは…うん、触れないでおこう。

「あたしたちが探し当てたいのは迷子チラーミィであって、他人の闇深い秘密ではないですから」
「闇深い秘密って言わないで!ただの趣味だよ!」
「(それもそれでどうなの)」

真面目に否定せず、わかってくれてありがとう、とかそんなんでよかったんじゃないんですかね?
とんだ厄介ごとに巻き込まれちゃったよ…さっさと退散しよう。

「とにかく、出会えた記念に粗品をあげよう。おいしいみずだよ」
「えっ…いや結構です。汁とか入ってそうなんで」
「入ってないよ!よく見て、未開封でしょ!」
「おじさんの味するかもしれないし…」
「しないよ!おじさんは味しないから!」

してたまるか。にしても食い下がるな…マジで何か混ざってるんじゃないの?
怪しさ満載のペットボトルに、ヌメたもツノで全力NO!の意思表示をしている。

「もらってくれなきゃおじさん困るよ…!キミが通報するんじゃないかと不安で不安で」
「口止め料ならキャッシュで頂きますよ」
「若いのにシビアなんだね…おじさん、キミの将来が心配だよ」
「あたしはいい年なのに人に言えない趣味持ってるおじさんの現在が心配です」
「かわいい顔して残酷なこと言うね…」

ションボリとしつつ、どこからか取り出したお財布からこちらの言い値分を渡すおじさん。
お金があんまり濡れてないのはミラクルだが、深く突っ込まないでおこう。

「ありがとうございます。絶対誰にも言いません。ハイ、指切り」
「ん?何かな?」

おじさんに小指を差し出したところ、不思議そうに見つめ返された。
あ、ガラルにはこの文化ないのか。…マーイーカ、せっかくだし。

「これ、約束を守る時の誓いみたいなものです」
「そうなの。おじさん知らないなあ」
「じゃあ反対側の小指出してください」
「こうかい?」

……やっぱ手は濡れてるな……。
仕方ないか、気にしない気にしない。

「ゆ〜びき〜りしましょ、ウソついた〜らハリーセンの〜ますっ」
「ず、ずいぶん過激な歌だね…」

顔が引き攣ってるおじさんはさておき、これで契約完了だ。
しっとりした手をさり気なく拭ってからヌメたボウルを抱える。

「チラーミィなら向こうで見たよ」
「わかりました。ヌメた、あっち探そ」
「メラ!」
「あ、キミ」
「おじさん、もう鳴き声出しちゃダメですよ?また見つかっちゃいますから」

それじゃ失礼します、と一応頭を下げてもう片方の噴水へダッシュ。
エントリーしなきゃだし、今度こそ迷子チラーミィ見つけたらあよ!



〜おまけ1 おじさん目覚める〜

「行っちゃった…名前……」

『普通のおじさんは公共の場にある噴水に人目を忍んで入らない』
『時間の問題だったと思いますよ』
『えっ…いや結構です。汁とか入ってそうなんで』

「………最初は冷たかったけど」

『口止め料ならキャッシュで頂きますよ♡』
『ゆ〜びき〜りしましょ、ウソついた〜らハリーセンの〜ますっ♪』
『おじさん、もう鳴き声出しちゃダメですよ?また見つかっちゃいますから☆』

「………最後はかわいかったなあ」



開会式が行われた直後。
ポケッターで非公式ファンクラブアカウント【ナナシちゃんのギャップしゅげー】がひっそりと開設された。



〜おまけ2 ギリギリセーフ〜

「今日はどんな一日だった?」
「そうですね、まず博士からダイマックスバンドをもらって…」

「フッ、ずいぶん歩き回ってるじゃないか」
「歩きました。あと、変なおじ………ラーミィを探してあげたりしました」
「(変なおじ!?)…一応聞いておくが、知らない人に声をかけられたりはしてないな?」
「(かけられたっていうか出てきたっていうか)声はかけられてないです」
「(声は!?)…触られたり誘われたりも、していないな?」
「(触られたっていうか触ったっていうか)誘われてもないです」

「………」
「………」

「ナナシくん、変なおじさんに遭遇したのか?」
「違います。あたしが言いたかったのは変なチラーミィです」

「変なチラーミィ?」
「ぴゅげーって鳴き声の、迷子チラーミィ」
「なんだそういうことか」
「ええそういうことです(あっぶな)」
「メンラ」



2022.01.14