星屑のスタァ、薄闇を駆ける


「お邪魔しちゃってすみません」
「気にせず座りなさい。相棒くんは水で大丈夫かな?」
「リャッ!ヌンメラメリャラーラ」
「礼儀正しいヌメラね!」

休憩中のマサタカさんとツルコさんに声をかけられ、バトルの後も鉱山をうろついていたあたしたちはシートに腰を下ろした。
正直喉が渇いていたのでありがたい。
ヌメたも嬉しそうにお水をかけてもらっている。

「暗くて大変だろう、これといった標識もないし」
「わたしも慣れるまでは苦労したよ〜」
「ツルコさんはどのくらいここで働かれてるんですか?」
「5年くらいかな?今ではもうどこに何があるかバッチリ!」

笑って胸を叩く姿は頼もしい。ヌメたもキラキラした瞳で見上げている。
マサタカさんは更に長く、先輩なんだそうだ。
いやはやすごいなあ。

「女の人も多いんですね。意外です」
「意外?」
「力仕事なイメージがあるので」
「ハハ、いつの話をしてるんだ?力仕事だから女性は少ない、なんて!」
「?」
「ローズさんのおかげで女にもチャンス与えられるようになったじゃない。さては歴史の授業サボってたな〜?」

oh...
どうやらこの手の話は一般教養、いやむしろ常識か。
バトル指南書ばかり読んでたから全然知らなかった。
やばいやばい。とりあえず流れに乗っておこう。

「バレました?つい眠くなっちゃって」
「わかるぞ。わしも居眠りしてよく怒られたもんだ」
「しょうがないな〜。確かに前は男の人ばっかりだったけど…」

苦笑しつつツルコさんは丁寧に説明してくれた。
その昔(といってもここ20年くらい前のこと)、鉱山で働く女性はいなかったらしい。
労働環境も悪く事故も多発し、問題は絶えなかったそうだ。

「社会的にも良い職業とは思われてなかった時代だ」
「それをローズさんが変えたんですか」
「うん。鉱石をエネルギーに変える技術を開発してね…」

当時、炭鉱の仕事をしていたローズさんが鉱石を次世代エネルギーに変換する開発を進め。
探鉱採掘作業を主要事業としたマクロコスモスを立ち上げるまであっという間だった。

「ガラル全土に供給するなら、それだけの量が必要だろう?」
「人手が要るから女性も対象になったんですね」
「それだけじゃないよ。委員長はね、優秀な人に性別は関係ない、って言い切ったんだから」

“炭鉱夫”という言葉を廃し、“作業員”には女性も応募できると発表したマクロコスモスへの批判は少なくなかった。
常識を覆すローズ氏の行動は、素晴らしいというより、向こう見ずで乱暴だという意見が一般的で。

「わたしもね。鉱山は男の世界っていうか…ちょっと無理だろうなって、思ってたの」
「実際、最初の募集では一人も女性がいなかったそうだ」

けれど、誰もが話題性だけで終わると予想していたその募集要項を、ローズ委員長は変えなかった。

『わたくしは自分の判断を間違っているとは思いません』
『優秀な人材に性差などありませんよ。様々な才能の組み合わせが、無限の可能性を生み出す』

『―――これはガラルがより良い未来へ向かうための第一歩なのだと、信じています』

コメンテーターの意地悪な批評、世間の強い風当たり。
その中でも姿勢を貫く姿に心を動かされたのは、これから社会に出る若い人たちだった。

「ツルコさんは応募したんですね」
「そう。ちょっとずつだけど女性も増えてきてたし…うちは父が炭鉱夫で、子供の頃から憧れてたんだ」
「そりゃ初耳だな。親父さん反対しただろう」
「え、応援してくれたんじゃなく?」
「わしが父親ならまず心配するさ。前より安全になったとはいえ、事務仕事に比べるとまだまだ危険だ」

うーん。それもそうか。親心っていうのは複雑だ。
マサタカさんの言う通りだったようで、ツルコさんは何度も頷く。

「母は応援してくれたんだけどね。ガラルの未来の第一歩よ!なんて言って」
「(ママつよい)ご自身がよく知ってる職業だからこそ、お父さんは反対されたんですね」
「でも今は応援してくれてる。それどころか、お母さんよりわたしのこと自慢してるんだから!」

ちょっぴり恥ずかしそうに、でも嬉しそうに胸を張る彼女はかっこいい。
よかったな!と見守るマサタカさんも、自分のことのようにニコニコしている。

「チャンスは平等に与えるべきだって運動も始まってね。やっぱりわたし、ガラルの未来の第一歩だったかも。なんて!」
「絶対、第一歩ですよ。にしてもすごい人ですねローズ委員長」
「そうとも!変な噂は絶えないがね」
「噂?」
「地下プラントで夜な夜な怪しい実験をしてる、とか。その手の話よ」

まあ、それだけの有名人ともなれば、週刊誌的なネタは尽きないだろう。
にしても夜な夜な怪しい実験って…もうちょっと捻れよ。七不思議かよ。

「噂はさておき、委員長はガラルの生活も社会も変えて来た。そんな人の下で働けるなんて幸せさ」
「わたしも!委員長のおかげで夢が叶ったんだから!」

二人とも輝いてる。ヌメたもキラキラと尊敬のおめめだ。
うん、かっこいいね。トップを敬い、日々勤しむ。理想的なワークライフだ。

「ローズさんが羨望を集める理由、わかった気がします」



「ジムチャレンジ頑張りなよ!」
「わたしたちも応援してるからね!」
「ありがとうございます!」

休憩もそろそろ、ということであたしは立ち上がった。
元気がもらえるエピソードを聞いたからだろうか、ヌメたもやる気に満ちている。

「よーし!ヌメた、このまま一気に最初のジムバッジだ!」
「ヌメリャ!!」
「あっナナシちゃん」
「お茶とお水、ごちそうさまでした!」

あたしも負けてられないぞ。
誰よりも先にバッジ集めて、ワイルドエリアデビュー一番乗りしてやんよ!



〜おまけ1 できるの早くない?〜

「行っちゃった…」
「出口は向こうなんだがなぁ」
「すぐ気付けばいいですけど…でも、良い子でしたね」
「ああ。しかし委員長のことをあんなに知らないとは、驚いたよ」
「お勉強苦手って感じもないですけどね??」

「まあ、とにかく応援してあげようじゃないか。記念すべき今期最初のチャレンジャーなんだ」
「はい!そうだ、ファンクラブ作ってあげましょう!」
「ファンクラブなんてどうやって作るんだね?」
「簡単ですよ!ポケッターでこう非公式の…。あっ」
「どうした?」

「もうありました…」
「もうあるのか…」



〜おまけ2 反射するのは光〜

出口を目指して暗いエリアを歩き続ける。
明かりは少ないけど、あちこちに散らばる不思議な輝きが足元を薄く照らしていた。

「……ローズさんは」
「ンヌ?」

万華鏡の中にいるみたいだ。万華鏡ってガラルにもあるのかしら。
音のないシンとした状況でも恐怖はなかった。

「どうして、鉱石からエネルギーを作ろうと思ったのかな」

数えきれないほどのキラメキ。
どれが使い物になるかなんて、あたしにはわからない。
でもこの景色を目にして、秘められた何かを感じたというならきっと。

「めちゃくちゃ石が好きな人だよね。あとガラルも」

そうじゃなきゃ。
新しいエネルギーを生み出して、社会の風潮にもメスを入れて。
全ては未来のために、なんて、言えっこないもの。


「……メリャラン」


独り言のつもりだったあたしのセリフにヌメたが返事をする。
その声は、なぜかとても寂しそうに聞こえた。


2022.01.29