ミス・バッドニュース 1


「晴れてよかったよなあ、ジュラルドン」

晴れた日のワイルドエリア。オレはカレー作りを見守っていた相棒に話しかけた。
ジュラルドンも嬉しそうに笑っている。こうしてゆっくりするのは久しぶりだな。

(…にしても)

鍋をかき混ぜつつ、こちらに突き刺さる視線に溜息が出た。
先程から、向こうの林に隠れて誰かがずっとオレたちを観察しているのだ。
こうしたことには慣れている。なんせキバナさまだからな。
だがそれも短い時間ならの話だ。
1時間近くも舐めるように見られちゃ、流石にウンザリもする。

「か、かわいい…!笑ったよ、クロバット!」
「多分強いよね。絶対にゲットしなくちゃ!」
「ああ…でもあの人、全然離れない…どうしよう…」

「……」

おまけに、なんというか全部駄々洩れだ。ぜ・ん・ぶ!
大した距離もなく、風も穏やかな今日。
残念ながら彼女の独り言は少しも消えずにオレへと届く。

しかも本人は隠れているつもりらしいが、共にいるポケモンの体はでかい。
がっつり木の幹からはみ出てる。というかもう数えきれないほど目が合った。
その度浮かぶ申し訳なさそうな表情に同情して、つい気付かないフリをオレはしてしまうのだ。

「うう…でも…いや!こういう時は行動あるのみ!」

とはいえ、いくらなんでも埒が明かない。
いい加減声をかけるかと考え始めたオレより先に、木の陰から飛び出してきた。
やっとかよ…

「オレさまに何か用?」
「なんだかんだと聞かれたら!答えてあげるが世の情け!」
「(いや用あるのかって聞いたんだけど)」

不審者だった人影は、控えめだった声を大きくして、元気よく何かを言っている。
行動もセリフも完全に意味不明だが、とりあえず、すげーかわいい。
顔はもちろん体もエロくて、おまけにへそ出しルックときた。
そんな恰好で外歩いていいのかよ?
襲ってくださいって言ってるようなもんだぜ。

「ロケット団参上!あなたのポケモン、いただきます!」
「へえ。オレさまのジュラルドン盗ろうっての?」
「そうです!見るからに強そうなポケモン…このコを持って帰れば、先輩たちも絶対喜んでくれる!」

ほーう。
どうやらこのカワイコチャン、オレさまが誰なのかを知らないようだ。
ビシィ!と自信満々に指を突きつけ、瞳をキラキラ輝かせている。
ついでにジュラルドンも上機嫌だ。
そうだよな、カワイコチャンに強いとか欲しいとか言われたらテンション上がるよな。

「いざ!尋常に勝負!」



「で?ナナシはその“ロケット団”に所属してるって?」
「うう…はい…そうです…」

まあ、結果は言うまでもない。
カワイコチャンことナナシの惨敗。
あっさり勝利したオレは、半泣きの彼女から事情を聞いていた。

「で?ポケモンを奪ったりするのが仕事だって?」
「そうです!強いポケモンで世界征服するのが、我らロケット団の野望なのです!」

ナナシの相棒であるクロバットを回復させ、本人にはカレーを食べさせ。
テーブルの向かいでえっへん!と胸を張る姿は最強にかわいい。
ついでに胸を張ったことで強調される巨乳も最強にかわいい。

「クロバット、カレーおいしいね!」

会話を重ねることで緊張も解けてきたのか、隣で食事をしているクロバットに笑いかけるナナシ。
やっぱめちゃくちゃかわいいよなあ。さっきの泣き顔もいいけど。
ちなみにクロバットは主人の胸に釘付けなオレを冷ややかな目で見ている。

「ごちそうさまでした!料理上手なんだね〜」

へにゃりと笑うナナシはカントー出身らしく、ガラルのことを全く分かっていない。
オレさまが誰なのか、ジュラルドンがどれだけ強いのか、マジで何も知らない。
こんなんでよくワイルドエリア入ったな!?
というかよく無事だったな!?

「カントーから来たのか。どうりで見慣れないポケモン連れてるわけだ」
「クロバットだよ!とっても強いの!」
「負けたのに?」
「…ジュラルドンはドラゴンタイプだと思ったから…」
「間違ってはねえけど」

つーかドラゴンは分かるのに、なんではがねが分からないんだよ…
このツヤツヤピカピカのボディ、どう見てもはがねじゃん。
バトルの最中、自信満々に『どくどく!』と指示を出したナナシを忘れない。
その瞬間クロバットが『エッッ!?』ってすげえ顔で振り返ったことも。

「で?ロケット団って悪の組織なんだろ?」
「そうだよ」
「(即答するかフツー)じゃあナナシは悪人なんだな〜」
「うん」
「(そこも否定しろよ)」

最初から薄々気付いていたが…ナナシは良く言えば素直、悪く言えば…まあ止そう。
悪の組織に所属していることも、悪事を働くことも、悪人であることも、全てあっさり肯定する。
カントーだとこんな悪者もアリなのか?世界は広いな…勉強になるわ。

「それじゃあ警察に連絡しなきゃな〜」
「え!?」
「だって悪いことするんだろ?オレさまも狙われちゃったしな〜」

当然、そんな気はサラサラない。
大体こんなドジっ娘が悪役を自称したところで、何が出来るんだか。
真正面からバトル吹っ掛けておいて、タイプ勘違いして意味ない技を指示するんだぜ?
そんなナナシを警察に引き渡したところで、逆に無駄な仕事が増えていい迷惑だろう。

「そ、そんなあ…」

みるみる元気が無くなり、また泣きそうになるナナシ。
あ〜その顔はダメだって。ムラムラする。身体も服もエロいんだからさ。
くびれたウエストが惜しげもなく披露され、ミニスカとサイハイブーツで作られた絶対領域が眩しい。

「ナナシは悪者だから、仕方ないよな〜」
「ううう…!」

通報はしないが、見逃してやるつもりもない。
ナナシからこのキバナさまに喧嘩を売ってきたんだぜ?
もう少し満足させてもらわなきゃ、なあ?

「お願い!何でも言うこと聞くから、警察だけは…!」
「へえ〜マジで“何でも”言うこと聞くの?」
「き、聞く…!聞きます…!」

それに、こんなガードゆるゆるチャンには、ちゃんとした教育が必要、だよなあ?