ニューイヤーズ・イヴ 2


「うわあ〜」

約束の時間よりも早く到着した私の目に映ったのは、人、人、人。
イルミネーションの点灯もこれからなのに。カウントダウンライブ、おっきなイベントなんだ…
これじゃあクロバットもボールに戻さなくっちゃ…うう…心細いなあ……

「ナナシさん」
「びゃっ!?」

クロバットに声をかけてから返ってもらおうとしていた私は、後ろから声をかけられ飛び上がってしまった。
振り向くと口元を抑えプルプル震えているリョウタくんが…
クロバットもため息をついている。うう…

「プッククッ…すみません驚かせて」
「う、ううん。リョウタくんもお仕事?」
「ええ。ナナシさんが来たらお連れするようにと、キバナさまに言われたもので」
「キバナくんが?」

まだ連絡していないのに、どうしてわかったんだろう?
相変わらずキバナくんは凄い人だ。やっぱりポケモンみたいな技を使えるのかもしれない。

「ナナシさんは目立ちますから」
「な、なななな何が、かなっ!?」

突然心の中を見透かしたようなリョウタくんのセリフに、また飛び上がりそうになった。
でも冷静を装って聞いてみる。まさか…リョウタくんもポケモンみたいな技が…!?

「技が使えるわけじゃないですよ」
「!?」

ナックルジムの人たちって、実はエスパータイプなのかもしれない。



「ドラゴンタイプはエスパータイプなのかなあ……」
「キバナさま、ナナシさんをお連れしました」
「サンキュ。で、このコは今どこに旅立ってんの」
「考えていることを全部当てられ、ナックルジムの人間は読心術が使えるエスパータイプなのかと」
「ああそういう…」

いまだにポワポワと思考を繰り返すナナシはかわいい。
かわいいけど、別にオレら心読み取ってないから。普通にオマエが考えてることポロっと言っちゃってるだけだから。

「でもナックルジムはドラゴンタイプで…。……????」
「ナナシ、お疲れさん」
「キバナくん!?お、お疲れさま」

いよいよ混乱を極めたナナシの肩をトントン叩いて呼び戻す。
何事にも一生懸命だもんな、オマエは。そういうとこ好きだぜ。よく方向性間違ってるけど。

「頑張り屋のナナシちゃんには特等席を用意したぜ」
「へ…え!?」
「暗くなってからのお楽しみな。それまでジムの中にいろよ?外は人多くて危ないから」
「う、うん」

ナナシの地元じゃカウントダウンライブなんてそうそう無いらしい。
それを知った時、カントー式ニューイヤーズ・イヴを二人で過ごしたい、と正直思った。
だが一年を締め括るこのイベントはある種の伝統行事だ。ジムリーダーであるオレが放り出すことはできない。
同時に、ナナシを家にポツンと残すなんてこともできない。
ならどうするかって?やるに決まってんだろ。

「ここならクロバット出してもいいぜ」
「うん!ありがとう!」

特別なガラル式ニューイヤーズ・イブを。



「こ、ここ…!高いんだね…!」

準備を終えたらカウントダウン開始まで、オレたちもパーティーだ。
といっても仕事途中なのでケータリングはせず、ちょっと豪勢なフードとワインを並べて終わり。
軽く飲み食いしつつその時を待っていたが、幸いナナシがほろ酔いになったので特等席へと案内した。

「だから風も強いんだよ。寒かったらすぐ言うんだぜ?」
「うん!!」

普段は関係者しか入れない宝物庫の一番上。
かなりの高さなので風が強く、寒さが身に染みる。

「キバナくんの手、冷たくなってる」
「いつものグローブしかしてないからな〜」
「ギュしたらあったかくなるかなあ?」
「なるなる。ギュ〜〜ってしてくれる?」
「うん!」

自分からあまりスキンシップをしないナナシだが、アルコールのおかげで羞恥心は薄らいでいるらしい。
一回りくらい大きなオレの手をにぎにぎしている姿はなんというかこう…擽られるな、男心を。

「もう少しでカウントダウンが始まるぜ」
「始まったら隠れなきゃ」
「なんで?」
「キバナくんテレビに出るんでしょ?」
「ハハッ、映るのはローズさんとダンデだけ。ナックルとエンジンは主にジムを撮ってんだよ」

そっかあカメラ無かったもんね!と笑っているが、カメラは普通にあるぞ。
ケンホロウカメラでいろんな所から撮影されてるんだが…まあ言わなくてもいいだろう。

<ガラルのみなさま!お待たせしましたね!>
「お、始まったぜ」

この時期だけ掲げられる巨大なサイネージに注目が集まる。
パブでもレストランでも同様にローズさんのアナウンスが流れているはずだ。
ナナシは無邪気に目をキラキラさせている。かわいい悪役ちゃんだぜ。

<それでは新年をお迎えしましょう!5!>
「ナナシ、こっち見て」
「え?」

<4!>
「日付が変わった瞬間に」
「うん」

<3!>
「キスするから」
「え!?」

<2!>
「ナナシはしたくない?」
「う、ううん!する!」

<1!>
「キスしたいんだ?」
「したい!…です!」

<0!ハッピーニューイヤー!!>

各地で上がる花火と歓声。その音を聞きながら口付ける。
精一杯背伸びしてオレの首に手を回すナナシは、やっぱりいつもより積極的だ。
酒の力か、はたまたイベントのマジックか。どっちでもいいな、キバナすげえ幸せ感じてるから。

「ん……ハッピーニューイヤー、ナナシ」
「んぅ…あ、けましておめでとうございます」
「それがカントーの挨拶?」
「うん。えっと、あとね」
「ん?」

「今年も、よろしくお願いします…!」
「フフッ、ああ。オレさまこそ」

今年も来年もその次も。
ずっとずっと、よろしくな。