「ナナシの作る飯は美味いよ、絶対に食べるべきだね!」
「(大丈夫だろうか…)」
クエスト終わりにウツシから声をかけられ、ライズは彼の家へ共に向かっていた。
夕飯に招いてもらったことは嬉しいのだが。若干の不安があるのも事実である。
「ナナシただいま♡」
「おかえり」
「今日のご飯は何かな?」
「おなべ。ウツシ、手、洗ってきて」
「鍋…もしかして俺が昨日言ったこと覚えてたの?嬉しいなあ♡」
「っ、べ、つに!ウツシが言ったからじゃ…」
勢いよく振り返ったナナシとバッチリ目が合う。
途端彼女はピシッと固まり、中途半端に開かれた唇は震えている。
「ぁ………ぇ……?」
「よ…よう…邪魔するぞ…」
気まずい。
これはもう、それはもう、気まずい。
「ライズ聞いたかい!俺の言ったことを覚えててくれたんだよ!」
「あ、ええ…(教官!空気を読んでくれ!)」
「ぁ…ぅ…」
なんせ彼女はライズにとっては妹弟子、後輩である。
良好な関係を築いているものの、元々口数少なくあまり人に会いたがらない。
おまけに彼女は、
「素敵なお嫁さんを持って、俺は幸せ者だなあ…♡」
「(教官んんんんん!!)」
「あ……う……っぅ、ウツシのばかあっ!」
「ええっっ!?あっ、ナナシ!?」
言うが早いか、ナナシはあっという間に外へ飛び出した。
翔虫で華麗に屋根へと上がるところは訓練の賜物だろう。
ウツシは大変優秀な素晴らしい教官である。
ただ、素晴らしい教官が素晴らしい伴侶だと言い切れないのが難しいところだ。
「どうしたんだろう?」
「…多分、恥ずかしかったのだと思います」
「恥ずかしい?俺は何かしたかい?」
「(教官…)色々と知られたくなかったのでは?お二人のことはその…まだ公にしてないんでしょう」
「そうなんだよ!ナナシのかわいさを自慢したいのに!誰にも言えないのが辛いんだ!」
「もしや自慢したいが為に俺を招いたのですか?」
「流石愛弟子!察しが良いね!」
爽やかに笑う恩師に、ライズはため息をついた。
彼の性格を考えればそうなるだろう。
だがそもそも秘密にしているのは―――
「教官…ナナシはまだこど……若いですから。ちゃんと隠してやるべきだと思います」
ナナシはイオリやヨモギと同じくらいの、言ってしまえば“まだ子ども”な竜人族の少女である。
何がどうしてそうなったのか、年の離れたナナシにウツシが惚れ込み、モノにしたのだから恐ろしい。
しかしながらまだ成人になっていない、ということで二人の関係は秘密とされていたのだ。
最も、一部を除いた里の人間が知っている謂わば公然の秘密だが。
「そうか…ナナシは恥ずかしがり屋さんだから、イチャイチャしているところを見られたくなかったのか」
「そんなところでしょう多分」
あれはイチャつきなのですか。
教官、違いますそうじゃありません。
言いたいことは色々あれど、これ以上ややこしくなるのは御免とライズは明言を避けた。
早く仲直りをしてもらいたい。自分は腹が減っているのだから。
「彼女を迎えに行ってくるよ!待っててくれ、すぐに戻る」
「わかりました」
屋根の上なのでそう時間がかかることも無かろう。
素直に座ったことを彼が後悔するのは、数時間後のことであった。
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