◆◆先輩デビュー◆◆
「………」
「………」
「………」
「………」
「お前ら何か話せよ!」
「パイモン落ち着いて」
「おしゃべりすることないもん」
「ナナシもそんなこと言わないで」
引き合わせたはいいが、元々無口な人間が揃っても賑わいなどなく。
沈黙に耐えられなくなったパイモンが声を上げても静かなままである。
「おいレザー!あれ持って来たんだろ!?さっさとナナシに渡せよう!」
「うん。…これ」
「…???」
取り出された紫色の果実に興味津々なナナシ。
ようやく変化が起きたことに空もパイモンもほっと胸を撫で下ろす。
「ググプラムの実だ。お前、フルーツが好きだって師匠に聞いた」
「トゲトゲ。いたくないの」
「痛くない。持ってみればいい」
恐る恐る、手に乗せられた実を色んな角度から観察してはフンフンとニオイチェック。
ナナシはやっぱり猫なんだなあと空はヨシヨシしたくなった。
「奔狼領にしか生えてない。それ、お前にやる」
「レザーは仲良くなりたくてプレゼントしたんだぞ!そこんとこ忘れるなよ!」
「ホンモノのググプラム、はじめて。おいしい?あまい?」
「人の話聞けよ!」
「ググプラムは…酸っぱくて渋い…甘くはない」
「レザーもオイラを無視すんな!」
「ググプラムの実はジュースにした方が美味しいよ」
「じゃあディルックさまにお願いする」
「チクショウ…なんだよみんなして…」
消沈する相棒を慰めながら、そっと二人の様子を探る。
ご機嫌にピコピコと尻尾を動かしているので、プレゼント作戦は成功のようだ。
「…喜んでもらえてよかった」
「ナナシが喜ぶの、どうしてうれしい?」
「俺の姉弟子だから。…ずっと、仲良くしたかった」
「(うわあー告白みたいになってるー)」
はにかむレザーと見つめ合うナナシ。
ここに某騎士がいないことを心底感謝した旅人であった。
「アネデシ、ってなあに」
「えーっとな…先輩だ!ナナシはレザーにとって先輩なんだぞ?」
「!!!ナナシ、せんぱい!?」
「(さっきの甘酸っぱい雰囲気は…)」
「ガイア先輩と同じ、せんぱい???」
「そうだ!よろしく頼むぜ、ナナシ先輩!」
「ナナシせんぱい…!」
これまでの素っ気ない態度はどこへやら、ナナシはフフンと強気に腕を組んだ。
雰囲気の違う黒猫に、三人揃って疑問符を浮かべると。
「ナナシ、先輩だから。案内してあげる」
「お、おう…(もう全部知ってると思うぞ)」
「あ、うん…(もう全部知ってると思うけど)」
「わかった。頼む」
「うん。先輩だもん」
ルンルンと音符でも飛ばす勢いで、後輩を引き連れ意気揚々と執務室へ向かうナナシ。
大人しく着いていくレザーの素直さに、パイモンと空は改めて感心するのであった。
◆◆先輩の務め◆◆
「リサ先生!ジンさん!」
「あら、今日は狼ちゃんと一緒なのね」
「うん!ナナシ先輩だから、レザー案内してるの」
「そうか。頼もしい後輩ができたようで私も嬉しいよ」
「うん!」
「レザー、この子をよろしくね」
「わかった」
「(早速後輩に任されてるぞ…)」
「ナナシちゃん!」
「クレー。ちょうどよかった。レザーだよ」
「レザー?どうしてナナシちゃんと一緒にいるの?」
「ナナシ、先輩だもん」
「そうなんだあ!レザー、よかったね!」
「ああ」
「(クレーもナナシにはお姉ちゃんって言わないんだ…)」
「アンバー」
「ナナシ!レザーと仲直りしたんだ!」
「ナナシ、先輩なの。レザー案内してるの」
「えっナナシが先輩?……レザー、ナナシのことよろしくね!」
「わかった」
「(えって言った)」
「(えって言った)」
「こんにちは、ナナシさま」
「ノエル、レザーだよ。ナナシ、先輩なの」
「そうでしたの。レザーさま、何かあればいつでもお申し付けください」
「ああ」
「ナナシさまはかわいらしいお方ですから、その分私に!お任せを!」
「わかった」
「(頼らないよう誘導してないか?)」
「(そうだね)」
「ガイア先輩」
「ん?珍しい組み合わせじゃないか。どうした?」
「ナナシ、先輩なの。ガイア先輩と同じ、せんぱい。だから、レザー案内してるの」
「へえ?早速頑張っているな」
「先輩だもん」
「ハハッ。レザー、こいつは守り甲斐のあるやつだ。でも行き過ぎるなよ?」
「…わかった」
「(おい!なんか冷気出してるぞ!?)」
「(触れないでおこう)」
「誰もナナシを先輩だと思ってないよな」
「まあ仕方ないというか……」
「よしよし、いいコだ」
「!?……」
「わああナナシ何してるんだ!?」
「ガイア先輩のまね」
「レザーにやるなよ!急に撫でられたらビックリするだろ!?」
「ガイアって……」
「ガイア先輩。よしよし怒られたよ」
「誰にだ?」
「パイモン。ビックリするって」
「誰を撫でた?」
「レザー。ナナシ、先輩だから。ガイア先輩のまねしたの」
「………」
「ガイア先輩。よしよし、ダメなの」
「…いいや?男はみーんな“よしよし”が好きだぜ?気にせずやってやれよ」
「わかった。ナナシ、先輩だもん」
「(こいつは面白くなりそうだ)」