「おうち…かえりたい……」
「寝て起きればすぐ璃月でござるよ」
「ほらほら、さっさと横になりな」
案の定、ナナシは3日で耐え切れなくなった。
神里家一同で慰めるものの元気は戻らず、惜しまれながら稲妻を後にする。
「ぅぅ……」
船で彼女を出迎えた北斗たちでさえ、その衰弱ぶりには驚いた。
おまけに寝かしつけても、ひどく魘されては目が覚め、半ば意識を失うようにまた夢へと戻る。
その悲惨さにとうとうパイモンが泣き出してしまう始末であった。
「よっ、お帰り。…おっと、かなり苦労したみたいだな」
「ガイアぁ〜早く連れて帰ってやれよお〜〜」
「わかっているさ。うちのが世話になった」
港で帰りを待っていたガイアは、疲れ切った一同の顔を見て苦笑を漏らす。
相変わらずスマートに挨拶を述べる騎兵隊長に、旅人たちもやっと一息をついた。
「礼は改めてさせてくれ。ナナシ、帰るぞ」
「……?」
「北斗、どうしたの」
「…えっ?あ、ああ!迎えが来たなら安心だね」
「ハハッ。世話の焼けるやつでな。手間をかけすまなかった」
「ガイア、ナナシのやつ本当に大丈夫か?」
「問題ないさ。お前さんたちへの礼も後にしてくれるか?先にこいつを休ませてやりたいんでな」
「もちろん。俺たちも後から宿に向かうよ」
しばし呆けていた北斗が腕の中にいる猫娘を引き渡す。
ぐったりとしたナナシを大事そうに抱え直し、ガイアはその場を後にした。
「……」
「どうしたでござるか」
「さっきから変だぞ?」
「ああ、いや」
豪胆な姉御にしては珍しく言い淀む。
彼女の視線は立ち去った二人を追ったまま。
「ナナシがああなっているのに―――なんで、嬉しそうなんだ?」
「ナナシ」
「ぁぅ……がい、あ……?」
「ああ。お前のガイア先輩だ」
「…がぃあ、せんぱ…。…ふ、う、っ…ぅえええ〜〜…」
子供のように泣き始めたナナシを抱き締めてやる。
余程寂しかったのだろう、背中に回された腕はいつにない程の力強さだった。
「よく頑張ったな」
「ぐす、ぅぅ、うっ、ええ…」
たとえどこで、誰に、どれ程の愛情や精気を注がれようと。
このいたいけな生き物を生かしてやれるのは世界中で自分ただ一人だけ。
「やっぱり俺がいないと眠れなかったか」
しかし、慣れというものは非常に恐ろしいものだ。
ナナシはモンドの安寧たる日々の中で、その事実を忘れてしまうかもしれない。
時間による摩耗を危惧するのは神だけでなく。ガイアも、また。
「意地悪したわけじゃないぞ?ジンも言っていたように、お前の成長のためだ」
「う、ぅ……ぇっ、ふええ…っ…」
しゃくりあげる少女には悪いが、
「たまにはこういう刺激も必要さ」
これは純然たる愛の再確認である。
「やはり帰ってしまいましたか」
「残念ながら」
「…フフッ。やはり」
晴れ渡る青空と同じ、水色の髪を揺らした当主は優雅に微笑んだ。
「彼女を囲うには、もっと策を練る必要がありそうだ」