夏
2018/05/29
こうしてみるとほんと王路巧の話作るの楽しいよなっておもう
王路はほどけた靴紐見下ろした。真昼の太陽が俯いて眺めるその顔に影をつくっている。近く紺碧の空、重たい鈍色の入道雲、混凝土からたちのぼる陽炎がそこかしこを歪めていた。熱は大地を干上がらせ、身体から水分を搾り取った。湿度の高い空気で皮膚の外がわだけが潤っている。
「 、」
木陰に入ると蝉がジワジワと四方八方から叫ぶので、男の言葉はくぐもって聞こえない。仰ぎ見ようとすると、木洩れ日が眼を焼いた。一瞬にして白む世界に瞼をおろすとそのまま意識が空中分解していく。
さなかで檸檬の香りが鼻についた。掌が背中支える感触と、ひとの体温にむず痒い吐き気を催し、抗議しようとするが声が出なければ腕も上がらない。夏に溺れていく。
体と意識が深みへ落ちる中でみた彼は、焦りもなく、声をかけるわけでもなく、ただ黙って意識を手放そうとしているのをひんやりとした眼差しで、退屈そうに眺めていた。
次に目が覚めたとき、寺の縁側に寝かされていて、王路巧がうちわでそよかぜを送っていた。
「目覚めたかい、」
眼差しに先ほどの冷たさはない。心配している様子もなく、そっと細められただけだった。