喫煙

2018/06/08

そのざきはじめ
違和感を覚えて手もとの参考書から顔を上げ、あたりを見渡した。何も変化はない。この引っかかりはなんなのか。本に付箋を貼り付け、閉じる。部屋はもっと明るかったように感じる、だが思ったより時間が過ぎていることは珍しくはない。もっと、縫い針に糸を通すような、これだということがありそうに感じて、思案したが、時間をかけずに謎は解けた。さざなみのような音が聞こえるからだ。ここは海の近くではないので、すぐに雨が降り出したのだとわかった。ふと、時計を見あげても、しばし睨みつけていなければ時刻を読み取れない。規則正しく退屈な秒針の音と、風にあおられまばらに大小する雨粒のぶつかる音を背景に、辛抱して睨みつけると1時間程度しかたっていないことがわかる。謎はわかってしまうと、面白みのない。わたがしのようなものだ。摂取すると舌の上で溶けて失せる。カーテンをひき、眺める窓の外は部屋よりもいくらか明るいのでじきに止む、夕立か、と結論づけて参考書に戻る。

次に顔を上げるころには、カラリと晴れていた。窓を開けてベランダに出る。焼け石に水をうった香りが立ち込めていた。心なしかタバコも湿気て重たい煙になった

 
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