蛇の誘惑
2018/06/21
おうじたくみ
「ねえ、ぼくのこと、いまでもすきなのかい」
微睡んでいるのか、微笑んでいるのか、上気しているのか、ぼんやり眺めているのか、
見つめているのか、焦点があっていないのか、わからない。全く、少しも。
口元が見えず、妖しく、やわらかな眼差しが注がれている。
まるで、好きであったことを知っているかのような、
相思相愛であったかのような、いま好いているような、
…そもそもこちらが好いたことがあったかのような、その感情を長らく維持しているかのような、短い文句の中によくそれだけ誤情報を詰め込めるものだ、忌々しい限りである。絶句して、批判の意味を込めて一瞥をくれてやっても、気だるそうに放った四肢を少し動かして、気ままにとぐろを巻いている。
「ねえ、どうかな」
ベッドサイドに置かれた煙草のソフトケースを掴んで、揺すり、飛び出した1本を舌で絡めて咥えた。シーツが汚れると注意しても、お構いなく正面から煙を吹きかけられる。記憶にすりつくこの匂いは、全くの他人が、路上で蒸していてもつい振り向いてしまう癖を生んでいた。いつの間に手元に置いたのか、彼は咥えたものを唇からそっと離すと、灰皿に静かに燃えクズを落とした。