王路巧という医師について
2018/03/12
某総合病院の女医の証言
病院の救命救急医の非常勤としてきていた方だった。
その当時、私はまだ研修医で、現実よりも希望や使命感に重きを置いていた。
そんな若かりしとある夜に、マンション火災が起こり周辺民家も焼ける惨事がおこった。続々と救急搬送されてくる人々のトリアージの指揮を取ったのが王路医師だった。彼は死のふちに落ちまいと耐える人々を、少し伸びた前髪を耳にかけて確認していた。看護師、救急隊員から情報を聞いてカテゴライズしながら動く王路先生は、まるで踊るようだったことを覚えている。
黄、黄、緑、赤、赤、緑、赤から黒。どの色のタグがついても、その人の目は憂いに揺らぐことなどなかった。
私は助けられるのではないか、なにかできることがあるのではないかと走り回っていた。
「先生、まだ」「命をつなぎ止めるだけの、適当な処置を君の頭の中で組み立てられているのなら、タグはつけ直しなさい」
君の判断がこの現場にいる全ての人間の動きに影響する。指1本、心臓に至るまで、全ての人間の、全ての動きに。
王路医師はそう言って、私に笑いかけたのだった。