今後
2018/07/08
バルゾーイガナリエと御子柴紅
夢見が悪くなって久しい。
頃合なのだろう、と刃物を遊ぶ手かおぼつかなくなる。
不可思議な延命だったが、明確に期限が設けられていて、それで十分であった。
ナイフを取り落とすことなく、懐にしまい込む。鍛えられた表情筋は、崩れることはなかったが、よく見れば白目が濁り、肌が荒れている。
不眠による疲弊はピークをとうに超えても、なお他人に気取られることはなかったが、宣教師のような清貧と慎ましやかさで、我ながら、既に気が狂っている、と感ずる。狂気の中選んだのは、祖国への帰郷でなく長らく過ごした極東での逗留でもなく、全く別の国での諜報であった。亜細亜よりもいくらか骨は折れる。
「…の便で帰国する予定デス」
「そうか」
「御子柴サンといると愉快でしたヨ。会えなくなるのはサビシイですネ」
「…」
整った顔立ちが寄せられたまゆで歪むがそれでもなお、精悍であった。
「生きてくださいネ」
「は?」
「またいつかお会いしまショウ、ということですヨ」
殊勝なことを、と嘲笑うように鼻がなる。
「どうかお元気で、ハニー」