夢枕

2018/07/16

しんだおうじたくみ
「ね、聞こえる?」
心地よいような、懐かしいような、つい最近聞いたような、胸中が波立って、そのざわめきが爪先まで広がっては心臓に帰る。目を開けると、唇で三日月の弧を描いて、小首をかしげて尋ねる王路巧がいる。
「あの子はどうしてるかな?」
「そう、」
「きみは?」
「ぼくがいなくても、さみしくないかな」
「それとも、胸が苦しかったりするかい?」
触れてくる手に温度は感じない。微笑みを絶やさず、王路巧は優しく言葉を紡ぐ。

「元気だよ、ぼくは」
「ふふ、あの子はちょっとむくれてるよ」

ふっと風が吹くと、風にあおられて目を瞑る。ふわりと、檸檬が香って彼の匂いだとわかる。目を開けると、彼の姿がなかった。しかし声がする。

「起きて、寝坊だよ」

目が覚めると、寝室だった。時刻は8時半。王路巧の笑顔が瞼の裏でリフレインした。

 
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