あめふり
2018/09/30
にいなかなめとあめちゃん
記憶はどこに宿るのだったか、最新の論文ではシナプスと分子とイオンが…自問に対する解が情報として脳裏を過ぎる。
掲げた傘を傾けて辺りを見回すが誰もいない。
既知の仲であると、告げられて特に違和感を抱かなかった、疑わなかった自分の中には、どこか無意識的記憶があって、彼女をずっと受け入れていたのだろうか。会ってまもない感覚の彼女の気持ちを、喜んだのは、認識出来る以外のメタデータを生物は蓄積しているからだろうか。それとも、一目惚れだったのか。もし、一目見て惹かれたのなら、きっと本当の1番初めに出会った時も、きっと己は彼女に好意的だったのだろう。
いつ落ちたのか、彼女の髪をこの指で、纏め留めたバレッタは雨露で濡れそぼつ。拾い上げて眺めて、髪の毛1本でも絡まってはいないだろうかと探す己の醜態に苦笑した。
先程差し出されたこの傘を受け取った時に触れたように思う彼女の指は、記憶の改竄なのか。
雨中に差す傘の中で見た彼女の横顔を描き直そうと傘を掲げる。直立に持つ必要も、慮って傾ける必要も失った傘を肩につめたくのしかかった。
未練も記憶か。
これは失いたくないな、と唇が震えた。