たくりつ

2018/05/08

抱き寄せて
美しい女だなと思う。
不屈の、というにはあまりにも華やかで、泥臭さがない。小動物というには、豪気な彼女は、ワイシャツを纏うように、迷いなく、かろやかに背中に腕をまわしている。わざと、項あたりをそっと撫でてから、彼女の華奢な肩を抱く。黒髪がまばらに絡む。よく手入れされていて心地いいのに、触れられると嫌がる猫のように、背中に伸びた指先を少し立てて掻かれる。嗜虐心を煽られたが、彼女の表情をとくと見るには、僕らは慎重さがありすぎて、いまは距離が近すぎた。
ただ、まばたきのたびに乱反射するアイシャドウと、ゆれる睫毛を眺めているだけでも、無駄に視線を配るわけでもなく、強固な意志でどこかを見つめているのがわかる。

美しい女性だね、きみは。
律くんが涙を溢すときがもしもあるなら、いまと同じ表情で泣くのかな。それとも動揺して瞳が泳ぐかな。その時の顔は、きっと正面から見たいなあ、

ふっと、律くんは微動して視線をあげた。
「こっち向いてって、念を送っていたのに気がついたかな?」
彼女は呆れて顔をおろしてしまう。
「肩紐、元に戻してくださる?」
「無意識で、つい。」

 
hetero 
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