おはなばたけ
尾原おはなばたけ
今思えば思い当たる節がある。
ねむるときに身体中がむず痒く、虫が履い回るようなこそばゆさ、春風が撫でるような、夏の陽射しに焦げるような、雪の降る音を聞くような、見えないが感ずることはあった。
「尾原さん、はな、ついてますよ」
同僚の手がぬっと伸びて思わず身を引いたが、他人と距離を詰めることを躊躇わない人間はそんな微動を露ほども感知せずに肩口に手をかけた。身体に触れられることはなかったが、確かになかったのに、「それ」を掴み取られると激しい痛みで背中が跳ねた。
「ほら、。花屋でも寄ったんですか?」
薄紅色で掌ほどの花を手に載せて見せられる。長い弦が、ずるり、と襟ぐりから次いで出てきた。
「なんの花ですか?」
そんなのおれがしりたい。黙って首をふり、わかんないです、捨てます、と小さく答えた。
その後は早かった。
まずそのとき摘まれた痛みは次第に背中の広範囲に広がり、一晩寝れば治ると思っていたら逆で、起きる頃には服の中が花粉と花びらで彩られていた。目がゴロゴロすると思っていると左目から細い茎と蕾が出ていて、昼前までに花開いた。そこかしこに茎と弦がのび、芽吹いて、蕾を膨らませている。
息苦しくなり、水を飲む。乾燥わかめよろしく、瑞々しい草花が咳と共に口から飛び出した。開かなくてもわかる。脳みそと頭蓋骨の間には芝生が広がっていて、心臓にも毛が生えるようにして小花が咲き乱れているのだ。、ふくらはぎに血管ではない筋が浮き上がる。手の甲から皮膚を突き破って伸び、芽を出している。
体から伸びる草花は触れると感覚がある。撫でれば撫でられていると感じ、千切るなら一瞬気をやってしまうほどに痛む。
自分の体を養分にしているならば、すべて吸い尽くすのではと、空恐ろしい速さで繁殖していく。邪魔で仕方ないが、鋏で剪定しようものなら、のたうち回ることになった。
声が出なくなったところで、端末に手を伸ばし、このことを、信じてくれる誰かに助けを求めたいと、わさわさ揺れる種々をかきわけて連絡先を探る。
だれに?
たすけてほしい、
しんじられるか?こんなこと?
目の奥から涙が溢れて眼球を濡らしている、その端から根がのびて水を吸っていく、また一段と大きな花を咲かせて視界は埋まっていく。