警視庁のマドンナさん - 春風


「坊やも知っての通り、赤井君の射撃の腕前は群を抜いているが…」
「その俺でさえもが、一目置く存在がいるのさ」


「スナイパーの赤井、ガンマンの東雲と並び称される程の腕前の、ね」
「!!」

「拳銃を持っていない状態から弾丸を発射するまでのスピードが驚異的に速く、その速さは“速撃ち0.3秒”とまで言われている」
「0.3秒?!」

「その人も、赤井さんたちと同じFBIなの…?」
「いいや。彼女は、君も良く知っている警視庁に勤めているよ」
「えっ!その東雲って女の人なの?!しかも警視庁?!」

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「東雲泉さんって人、いる?」
「あら!コナン君、泉さんに会ったことあるの?」
「一回、バスジャックの事件のときに助けて貰ったことがあるだけなんだけどね…。僕まだあの人にお礼言えてないんだ」


「泉さんってどんな人?」
「どんな人って、警視庁のマドンナよ!格闘技全般に精通していて機械の扱いも得意で、何よりも射撃の腕前が凄いの。私が目標にする人の一人よ?」
「佐藤刑事が憧れる人って…」

佐藤も女ながらにかなり勘が鋭く頭の切れて行動力もある人物だと評価しているコナンにとって、それはかなり衝撃的な発言であった。

「警察学校を首席で卒業したっていう凄い人だよ」

「残念ねぇ〜、今日は泉さん非番なの」
「その東雲さんの家、教えてくれない?僕東雲さんに会ってみたいんだ!お願い!」
「うーん、多分泉さんは別にいいわよって言うと思うけど…」


“いいわよ”

「コナン君、気を付けてね?泉さん、あんな見た目しておきながら、壊滅的に生活力がないのよ」
「?」

頭にハテナマークを浮かべながら、コナンは取り敢えずその住所をメモしたのであった。


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「あら、あなたが美和子の言っていた子かしら?可愛らしいお客様ね。一度バスジャック事件の時に会ったことあると思うんだけど…覚えてる?」
「あ、うん…そうだったよね!あのときは本当にありがとう!」

ゆったりとしたスウェットに、


「僕、江戸川コナン!お姉さんは東雲泉さんだよね?」
「そうよ。立ち話もなんだし、入る?」

全くと言っても良い程にまで、何も物が置かれていない。良く言えば片付いている、悪く言うなれば…。

──「──壊滅的に生活力がないのよ」

「あれはこーゆーことだったのか…」

コナンは佐藤の言葉を思い出し、呆れ顔をした。


「ごめんなさいね、冷蔵庫にアイスコーヒーしかなくって。ブラックは飲める?」
「あ、僕飲めるよ!」
「ふふ、コナン君は大人なのねぇ」

コナンは思った。普通の大人の女は、こんな見た目をした子供にコーヒーなんか、況してやブラックのままなんか出しゃしねーよ…!


「ねぇ東雲さん、お昼ご飯食べに行かない?僕の居候先の下にね、ポアロっていう喫茶店があるんだ。サンドイッチがすーごく美味しいんだよ!」
「あら、いいわね」


本当にこの人が、赤井さんと肩を並べる凄腕ガンマンなのか…?
この余りにもゆったりとし過ぎた言動に、

しかし、そのコナンの心配はいい意味で裏切られることになる事実を、彼は未だ知らない。

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「…カッケェ」
「あら、嬉しいわね。ありがとう」

「ちゃーんと捕まっててね〜」

ブロロロとこの車独特のエンジン音を響かせながら、泉は駐車場を後にした。


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「いらっしゃいませ〜!」

「いえいえ、普通の公務員です」

「!あら、このサンドイッチとっても美味しいわねぇ」
「でしょー!」



『東雲君!今すぐ来てくれ!』
「?どうかしたんですか?」
『!』


「了解しました、すぐ現場に急行します」

「コナン君、ごめんなさいね。私これから呼び出し食らっちゃった」

五千円札を机に置いて、その横に小さく折り畳まれたメモを添える。

「また是非誘ってね。これ、私の私用の携帯だから。基本返信は遅れると思うけれど、必ず返すわ」

「あんまり拡散しちゃイヤよ」
「しっ!しないよ!!」

スズキGSF1200Porハーレー
「ハーレーですか。…随分と派手な公務員の方ですねぇ、コナン君?」
「アハハ…。バイク乗りが趣味だからじゃないかなぁ?」
「…へぇ?」


この男の手腕ならばいずれバレることにはなるだろうが、自分からは公にしない方がいいことは確かだ。


「……」

受け取ってしまったお釣りを握り締めて、コナンは足早にポアロを後にした。

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