恋を欲しがる少女



「龍之介くんどうしよう!やっぱり断った方がいいのかなあ」
「わ、わかった。わかったから落ち着こう。な?」

 そうはいっても時間はどんどんなくなっていく。誰が見てもわかる通り名前は焦っていた。
 半年後から始まるドラマの主役に名前は監督の熱い希望で大抜擢された。自分の芝居が認められたということで名前としては嬉しい限りだが、今までやって来たのは刑事モノだったりミステリー系だったりと恋愛要素とはかけ離れている役ばかりだったのに今回は何故か純愛ドラマのヒロイン役。監督がせっかく期待してオファーをしてくれたのだから断りづらく結局請けることになってしまったが、名前からしたら頭を悩ませる種になってしまった。

「事務所の為にも自分の為にも新しい事に挑戦したい!とは思ったけどさ…やっぱり不安だよ」
「君のそういう向上心、俺は尊敬するよ。でもまさか男性経験がほとんどないとは…驚いた」
「私の初めての男友達は龍之介くんだもん…」
「そ、そうか…」

 アイドル苗字名前。中学から大学まで綺麗に女子校に進学しほとんど男性と関わりのない生活をしてきた。社長にスカウトされてこの芸能界に入ってみたはいいものの、一番の悩みは異性との友好関係の築き方だった。どうにも緊張をしてしまうのだ。目の前にいる同年代の十龍之介ともプライベートでまともに話せるようになるまで一年近くかかった。そんな彼女が恋愛モノをやるなんて、と龍之介も相談を受けた時は驚いたものだ。

「ねえ龍之介くん。此処で一生のお願い使ってもいい。ドラマまで役作りに付き合って…」
「俺より天や楽の方が適任のような気がするんだが…」
「天くん絶対怖いじゃん!!スパルタされる未来!!楽くんとやったら緊張しすぎて演技どころじゃないし…それ以前の問題というか…」
「そこで話慣れている俺の出番、というわけか」

 名前は何度も頷く。男に慣れる(語弊が出そうな言い方だが)というよりも最低限のスキンシップができるようになりたいというのが彼女がまず踏み出すべきと思う第一歩だった。龍之介としても他でもない名前の願いは叶えてやりたいし力になってやりたいとも思う。しかし名前同様そこまで女性慣れしているというわけでもない自分ができるのか、という不安も同時にあった。

「…わかった。俺で力になれることはするよ」
「本当?ありがとう!」
「ま、まず何からするんだ?」
「…何からしたらいいかな!?」

 逆に訊ねられてしまい困惑する龍之介。自分自身いろいろとこの芸能活動を通じて勉強はしてきたつもりだが、いざとなるとどうしたらいいものか。やはりこういうのは楽のほうが向いている気がしてならない。
 しかしここで楽にバトンタッチをするのも何故かもやもやとしてしまう。頼られているのは自分なのだ。解決できることはしてやらなければ。小さく咳払いをしておそるおそる名前の手に触れてみる。

「…わ、」
「まずは…こういうところから、じゃないか?」
「……なる、ほど、」

 最初は軽く触れる程度。そこから指と指を絡める。小さいが細くてきれいなその指に自分の指を絡めてぎゅ、と軽く握ってやれば名前は小さく息を呑んだ。

「りゅ、龍之介くん相手でも緊張する…」
「楽のところにいってたら卒倒だったかもな」
「やっぱ頼れるのは龍之介くんだなあ」

 へらり、と笑う名前を見てこれは素直に喜んでいいものなのかどうなのか龍之介は少し複雑な気持ちになった。一応緊張をする、と言ってくれているから男として意識はされているとは思うが如何せん他のメンバーの方が男として確実に意識されているのも確かである。彼女にとって自分が特別な存在であることは自負しているが、それでも友人止まりな関係で終わりそうで龍之介としてはそこは阻止したいところだった。

「そういえば相手役、誰がやるんだ?」
「ん、まだ先のドラマだから選考中だった気がする…」
「そうか…」
「龍之介くんが相手だったらいいのにな」
「え、」
「龍之介くんとなら恋愛ドラマもいいかなあ…なん、て、」

 名前はそこまで言って自分が口にしていることがどれだけ恥ずかしいものかに気付く。龍之介に握られていた手にみるみると力がこもっていき、頬も心なしか紅く染まっていた。「なんでもない!忘れて!」とまくし立てるがしっかりと龍之介の耳には聞かれてしまっていて、龍之介としてはそこまで言われたらなんとしてもスケジュールを空けなければならないな、と後日マネージャーへの直談判をする決意を固めていた。



つなしはぴゅあぴゅあな恋愛が似合う