これも愛情



 アウギュステが例年通りバカンスシーズンに入ったということで暫くは休息をとるためみんなでビーチに行くことになった。コルワさんに頼んでつくってもらった水着をようやく着ることができる。今年はどうしようかな、ルリアちゃんたちと遊ぶのもいいしのんびり浜辺で日光浴なんていうのも悪くない。観光してもいいかも。いろいろと期待を胸に膨らませながら支度を進めていると部屋の扉をノックされる。

「ルシオ!どうしたの?」

 部屋を訪ねてきたのはルシオだった。「入ってもよろしいですか?」と聞かれたので特に拒むこともなく彼を室内へ招き入れる。何やら大荷物のようでいくつか抱えていた紙袋を部屋の隅に置くとルシオは私に手招きをする。

「部屋の前を通ったら楽しそうな鼻歌が聞こえてきましたので、つい」
「わっ…き、聴こえてたの…」
「ご機嫌のようですね。理由を訊いても?」

 お茶でも淹れようかと思ったのに呼び戻されたから彼の目の前まで移動する。手を伸ばしてきたルシオがふわりと私の身体を抱きしめるものだからびっくりして変な声が出た。
 彼に機嫌がいい、なんて言われたが私よりも遥かに最近のルシオのほうが上機嫌な時が多い。というよりもスキンシップが目に見えて増えた。「今後はいろいろと控えずいこうと思いまして」なんてよくわからないことを言われて首を傾げたのは真新しい記憶である。ルリアちゃんやヴァンピィに抱きつかれることなんてよくあることだし友情の延長の好意のあらわれ、みたいなものだと思うからあまり気にしてはいない。ようにしていたが、ルシオはきらきら眩しいしなんというかルリアちゃんとはまた違ったドキドキを感じてしまう。そしてそれを拒めない自分もいた。

「アウギュステが近いから楽しみでしょうがないんだもん」
「そういえば…バカンス、と団長が話していましたね」
「うん。ルシオは今年どうするの?」

 去年は野暮用がある、なんていって騎空挺から降りるのをやんわり断られてしまった。まあ元々外に行くといろいろ大変な人だ。しょうがないとは思う。
 私の質問にルシオは顎に手を添えて少し悩んでいるようだった。断られると思ったから悩むのがまず予想外だ。

「聞き返してしまいますが、名前はどうするのですか?」
「うーん、まだ決めてなくて」
「では、お供させてください。私も降りて海を見てみようと思いまして」

 そしてまた予想外な答えに驚いた。もちろん嫌なんてことはないから二つ返事で了承する。ルシオは嬉しそうににこりと笑うと私から離れて紙袋からあれこれと取り出し始めた。

「まあ元々誘うつもりでいたのですが。実はいろいろと借りてみたんです。どうでしょうか、似合いますか?」
「すごいノリノリだね…どうしたのそのサングラス」

 サングラスに薄手のシャツを見せてくるルシオに思わず笑ってしまう。「団員の方からお借りしました。日除けになるようです」なんてちょっと無邪気に説明するルシオ。いつもきれいに笑っているから彼が笑うことに対して特別違和感を感じることはないはずだがいつもよりも楽しそうな気はする。

「名前も水着を着ると聞いてますが、どのようなものを?」
「コルワさんに新調してもらったやつ着るんだー」
「そうですか。それは楽しみですね」

 着たときは先ず私に見せてくださいね、なんてルシオは私の頬をやんわり撫でながら話す。なんだかちょっと独占欲みたいなものを感じたので「一番に見たいの?」なんて悪戯っぽく聞いてみると「勿論」とさらりと返されてしまった。カウンターを食らって私が逆に恥ずかしくなってしまう。

「そ、そうだ。もしよかったらこれつけたら?」
「?」
「ルシオも水着着るなら胸元、ちょっと寂しいかなって思って」

 自分から振った癖に話題を変えたくなって思いついたように私は棚から少し長めネックレスを取り出した。派手すぎないし可愛すぎもしないから男の人がつけても変ではないはずだ。ルシオに差し出せば「いただいてよろしいのですか?」なんて畏まって聞き返してくる。頷けばそれを受け取ってまじまじとネックレスを見つめていた。

「…有難うございます。肌身離さずつけておきましょう」
「あはは、大袈裟だなあ。いいよ、これくらい」
「残念ながら今私から差し上げれるものは何もないので、このお返しはアウギュステで必ず」

 楽しみにしておいてください、とルシオは私のおでこに軽くキスをする。不意打ちに思わずおでこを抑えると慌てる私を見てルシオはまた笑った。言われずとも楽しみで仕方ない、なんて思っていしまっていることに気がついて自分がルシオのことを友人以上として意識してしまっていることに気が付いた。この夏はひと波瀾おきそうだ。



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