今日こそ素晴らしい一日



「き、緊張した」
「はははっ。名前でも緊張なんてするんだな」
「そりゃ、相手が相手だもん…」

 年に数回だけとることができる長期連休。上位職になればなるほど連休はとりづらいものなのだがなんとか私とランスロットは勝ち取ることができた。それもこれもヴェインや他の団員たちの協力あってのものだ。心の底から感謝していた。
 そんな連休をさて何に使おうか、とランスロットに相談したら彼は「連れていきたい場所があるんだ!」と勢いよく言われてしまったので二つ返事でそれを了承し、着いていくことにしたわけだが。まさかそれがランスロットの故郷であって、そして自宅だとは思いもしなかったのだ。

「でも仲良く話せてたみたいでよかった」
「うん。ランスロットのお父様もお母様も気さくで優しいのね。そういうところはやっぱり親子なんだなって思っちゃった」
「ヴェインにもよく似てる、って言われてたな…まあ今はあまりそういった話もしないから今となっては懐かしいもんだ」

 懐かしむように少し遠くを見て話すランスロット。
 幼馴染とはいえ団長と副団長という関係になってからはそういった昔話をするよりまじめな話が多くなっているのかもしれない。とはいってもヴェインは羨ましいくらいにランスロットのことを見抜けるし気が利く人なのでまじめな話から砕けた話までベストなタイミングでふっているから全然してないというわけではないだろうが。
 彼が重圧に負けずにこうして剣を奮っていられるのはきっとヴェインのおかげだというのは見るだけでもわかった。踏み込めない確かな関係性なんてずるいなあ、ってしょうもないと解っていながらも少しだけ嫉妬してしまう。

「ねえ、どうして私を此処に連れてきてくれたの?」
「…それは」

 私が話を振れば珍しく話をもごもごと詰まらせているランスロット。不思議に思って首を傾げるが数分も経たないうちに自己解決したのか意を決してランスロットは私の目を見た。名前、と不意に名前を呼ばれる。真剣な顔つきにちょっとだけどぎまぎした。

「俺もいい歳だしさ、いろいろ考えることがあって」
「…う、うん」
「勿論国もまだ安定していないし俺自身も未熟な部分があると思う。けれどこのままでいるのは少しだけむず痒くて。…だからまずは両親に名前のことを紹介するところから始めよう、と思ったんだ」
「…えっと、それは、どういう」

 ぱしりとランスロットが私の両手をぎゅっと握る。真剣な顔がもう間近になって目を思わず逸らしたくなるがそれでも彼が言いたいことに期待を持ってしまって離すに離せない。

「婚約を、させてくれないだろうか」
「……っ」
「先ほども言ったがまだ国の情勢が不安定だ。騎士団もまだ改善点がありやるべきことばかりでお互い忙しいのは目に見えている。だから落ち着いたときに…その、一緒になりたいと思うんだ。だがそれまでに名前が誰かのものになるのは嫌で…我儘だとはわかってるんだが、譲れない気持ちでもあって」
「ランスロット、」
「…なんて、何言ってるんだろうな。俺。情けないことにいっぱいいっぱいになっているみたいだ」

 彼の言う通り私達はもう大人といえる年齢だ。恋人という状態もそれなりに長い。だからこそいつかはこういう日がくるんじゃないかって薄々期待をしていた。だからこそ、それが叶って嬉しさで死にそうだった。溢れそうになる涙をなんとか抑えながら、首を深く縦にふる。お願いします。と絞り出した声はひどく小さく震えていた。ランスロットは私の答えを聞き取ってくれたのか嬉しそうにはにかむ。

「ありがとう、名前」
「…それは、わたしの台詞、だよ」

 ランスロットは手を離して力強く私の事を抱きしめてくれた。
 ふんわりと爽やかな香りが私を包んでくれる。いつもよりもずっと彼の心臓はうるさく鼓動していて、緊張が伝わってくるようだった。それすらも嬉しいし愛おしいし、私のさっきもやっとあらわれていた子供っぽい嫉妬心なんてもうあっという間に何処かにすっ飛んでしまっていたようだ。
 連休初日からこんな幸せを感じてしまっていいのだろうか。そんな甘ったるい気持ちを抱えたまま私は彼の腕の中で眩しくなるであろう未来を思い描いた。



ランちゃんは付き合ったらちゃんと結婚まで考えてくれそう