無垢で無知で無防備で



 リュミエール聖騎士団と白竜騎士団の合同演習は充実したものだった。
 剣技はいつもシャルロッテ団長に素質を見抜いていただいて直々に稽古をつけていただいているが、私は団長の戦い方しか知らない。白竜騎士団の方々の剣の振るいはとても力強く猛々しいものばかりだ。どのようにこの太刀を自身に取り入れるべきだろうか。探り探りではあるが見様見真似で先ほどまで少し離れたところで他の者に稽古をされていたランスロット様の技を試した。同じ水の加護を受けている私ならばできるかもしれない、そう思ったのだ。

「うん、なかなかいい太刀筋だな」
「…ランスロット、様」
「続けてくれ」

 背後から声をかけられて振り向けばランスロット様があろうことか私の元へいらっしゃっていた。思わず声が上擦りそうになるが何とかいつも出している低めの声を絞り出す。
 またとないチャンスと思い私はもう一度剣を振るった。大技を使用する際の仮想敵として用意していた木人人形はあっという間に切り刻まれる。バラバラと地面に粉々になって落ちた人形を見てランスロット様は目を輝かせていた。

「素晴らしいな。リュミエール聖騎士団は本当に質の高い騎士ばかりだ」
「…いえ、恐れ多いです」
「ははっ、謙遜しないでくれ。本当にいい筋をしている。そうだな、もう少し初手の時に剣の構え方を変えると踏み込みやすくなるかもしれない。…剣を構えてくれ」

 ランスロット様がそうおっしゃるので私は言われるがまま剣を構えた。背後に立ったランスロット様がふわり、と抱きしめるような形で私の手に自らの手を被せる。手の位置を少しだけ変えられて、しっかりと握るように言われたのでそのように握り直せば「その構えでやってみるといい」とランスロット様が離れる。ふわ、と香った爽やかな香りに一瞬集中力が持ってかれてしまったが雑念を消すように頭を振って私は言われた型のまま先ほどと同じ技を繰り出した。すんなりの一打撃目が入り、先ほどの感覚とは全然違うのがわかる。身構え方だけでこうも変わるとは、と正直驚いているとランスロット様は大きく頷いた。

「いいな。その調子だ」
「ありがとう…ございます」
「後はもう少し身体を鍛えるといいぞ。男にしては細すぎるからもっと食べてこう」

 ランスロット様の言葉に数回瞬きをする。ああ、そうだ。私の事情は彼は知らないから仕方がない。そもそもそう見えるように髪も切り揃えて女性らしい口調も捨てているんじゃないか。

「ランスロット殿!」
「…?シャルロッテ殿?」
「名前は女性でありますよ」
「…えっ!?」
「彼女の家が厳しくお父上に強く逞しい騎士として生きるために男で在れ、と言われているのでその容姿なのです。女性騎士の中ではしっかりと鍛えていると自分が保証するのであります」

 たまたま私たちの会話を聞いていた団長がランスロット様に耳打ちをするために屈むよう頼み、こっそりと言葉を訂正する。教える必要は特にないのに、と思ったがシャルロッテ団長は「貴殿は十分鍛えているのだから、自信を持っていいのであります!」にこにこと笑っておしゃってくれた。私の基礎トレーニングのこともしっかりと把握してくださっているのは嬉しいことだ。

「あ、ええと。すまない!成程、女性故の細さだったんだな…」
「いえ。それに関してはこちらの事情ですのでお気になさらず。それに男性に負けてられませんし、アドバイス有難く受け取り鍛錬に励みます」
「そ、そうか…。というかその、構えを教えた時も…女性とは知らずに…」

 そこまで言って思い出してしまったのかランスロット様は顔を赤く染めてしまった。距離が近すぎたことを言いたかったのだろう。まあ少しどきっとしてしまったがそれでも得たものは大きい。「気にしていません。ご指導ありがとうございました」そう告げればランスロット様は少し苦笑する。

「君の家のことだから俺がとやかく言うのも何だが、君らしく生きれたらいいのにな」
「…自分らしく、ですか」
「…髪、伸ばしたらきっと綺麗だろう。短いのも似合ってるが勿体ないな」
「え、」

 なんてな、と笑って言葉を誤魔化すランスロット様。そんな風に言われたことがなかったので顔が熱くなる。たったその一言だけで少し伸ばしてみたいな、なんて思ってしまうのはやはり私は女性だからなのだろう。我ながら単純だなと浮つく気持ちを抑えながらそっと短い後ろ髪を指でなぞった。




光シャルロッテのフェイトエピにランちゃんが出てくるのは不意打ち