一番星に捧げたこころ



「なんだこれは」
「あれはササ…だったかな。確か」

 島を降りてグランに頼まれていた買い出しを進めるパーシヴァルと名前の目にとまったのは広場の真ん中に設置されている大きな葉竹だった。あまり見かけたことのない植物をパーシヴァルはまじまじと見る中、どこかの本で見かけた知識を引っ張り出してきて名前は軽く説明をする。そもそも今日は”タナバタ”と呼ばれる祭の日だったはずだ。

「この近辺の島では毎年この季節になるとササを立ててそこにお願い事を書いた紙を吊るすんだって。丈夫で不思議な力を宿すからお願い事が叶うかも?みたいな」
「成程…葉にいろいろつけられているのはこの島の民の願い、というわけか」
「おそらくね。まあ観光客の人たちも見よう見まねでつけてそうだけど」

 パーシヴァルが近づいてみるといろんな色の紙が吊るされている。流石に願い事をまじまじ読むのは書いた人間に不躾のような気がしたので控えることにした。
 ふと広場の警備をしていた人物が声をかけてきて丁寧に島の言い伝えやこの祭りの意味を名前よりも詳しく教えてくれた。どうやら自分たちと同じように不思議に思ってササに近づく者が多いらしい。彼は警備とガイドを兼ねているそうだ。

「よければお兄さんたちも書いていくといい。あそこに一式用意されているんだ」

 警備が指をさしたのは少し大きめのテーブルだった。そこには紙の束と筆が置かれている。ちらほらとそのテーブルで何かをしたためている姿も見受けられた。折角の誘いだが買い出しもまだ終わっていない。パーシヴァルは丁重に断ろうとしたのだがふらりと隣にいた名前が傍を離れて警備の誘いのまま願い事を書きに行こうとしているものだからパーシヴァルは眉を潜める。「おい、買い出しがまだだろう」念のため窘めるがそんな言葉届いていないのか敢えて流しているのか名前はテーブルの傍まで移動するとパーシヴァルに手招きをした。

「願い事、何を書こうかなあ」
「欲深すぎるのも如何なものかと思うが」
「えへへ…」
「照れるな。褒めていない」
「よーし!決めた!」

 紫色の短冊を手にした名前は筆を握ると迷うことなく文字を綴っていく。盗み見をするつもりはなかったが目の前で堂々と書くためパーシヴァルは彼女の書く願い事を目の当たりにする。書き終えて満足そうに短冊を見つめる名前を見て、薄く笑む。

「…お前にしては私利私欲がない上出来なものだな」
「あ!見てたの!恥ずかしい…」
「流石は我が家臣だ」

 パーシヴァルがそう褒めると名前は照れくさそうに頬を掻きながらもう一度短冊に目を落とす。『パーシヴァルが素敵な国を造ってそこで幸せに暮らせますように』と書かれたそれはすぐに叶うかはわからないが名前が一番求めるものだった。

「か、飾ってくる!」

 恥ずかしさを紛らわす為に名前は短冊を握って駆け足でササへと向かった。取り残されたパーシヴァルはそこから彼女をさらにからかうことはせず、手を伸ばして彼女と同じように短冊を手に取る。自分の髪や鎧と同じような赤色をしたそれに少し書き殴るように文字を書き起こした。

「あれ、パーシヴァルも書いたの?どれどれ…ってちょっと!そこ飾ったら見えないでしょ!」
「見せるものじゃない」
「盗み見したくせにー!ずるい!」

 書き終えたそれは名前の手に届かない場所に飾り付けた。なんとか見ようとしている彼女を「さっさと買い出しに戻るぞ」とうまく理由をつけて引き離す。『家臣や民が幸せに暮らせる国を造る』と願というよりも目標に近いものが書かれたそれを彼女が発見するのはだいぶ先の話であった。




王道の七夕ネタ