今日もナタクさんが人間について勉強しよう、と誘ってくれたのでみんなでナタクさんが人間の知り合いから借りている書庫に来て各々本を読み漁っていた。ナタクさんは定位置で続きの本を読み進めており、誘われた当初は別に興味なんてないんだから、なんて言ってたメドゥは熟読している。サテュロスちゃんもメドゥの力になれたらなんて言ってあれこれ為になりそうな本を探しまわっていた。そんな中バアルさんの姿だけが見えなかったので私は書庫の奥へと進んでみる。

「(あれ、珍しい)」

 奥に進むことでバアルさんの姿を発見した。声をかけようと思ったけれど彼が置かれていた椅子に腰かけて目を閉じているようだったので思わず声を呑み込む。あまり私の前でも寝ている姿を見せないからこうして時折時間を見つけては休息をとっているのかもしれない。
 貴重な休息時間の邪魔をするのもな、と思って私はその場を去ろうとしたが足元に何かがすり寄って来たのを感じて足を動かすのをやめた。足元に目を向ければハンニバルさんの姿があった。

「…ご主人寝ててつまらないの?」

 ハンニバルさんは不思議な猫さんだ。厳密に言うと猫ではないらしいけれど、なにものなのかは私もよくわかっていない。でも私にとっては見た目的にも可愛がりたいと密かに思っていた。
 とりあえずハンニバルさんを抱きかかえて伝わることはないだろうけれど話しかけてみるとハンニバルさんは首を傾げるような仕草をした。

「ふふ。もふもふしててかわいい。本当はたくさん触ってみたいなあって思ってたの」

 寝ているバアルさんを邪魔するわけにはいかないから少しだけ場所を移動して私は読書を投げて念願だったハンニバルさんを愛でることにした。ハンニバルさんに顔を近づけてみるとハンニバルさんは大きな目をぱちくりとさせている。かわいいなあ。バアルさんはどんな経緯でこの子を連れてるんだろう。今度いろいろ聞いてみようかな。あれこれと考えながらなんとなしにハンニバルさんの額に軽く口づけてみる。ぴく、とハンニバルさんが反応をみせるが特に逃げられるということはなかった。

「ハンニバルさんも照れたりするのかな?なんて、」

 そんな冗談を返事はないとわかりながらもハンニバルさんに投げかけていればガタン!と離れた場所から何かが落ちる音がした。なんだろう。誰かが本を落としたりしたのかな。ハンニバルさんを抱きかかえながら音の鳴った場所、たぶんバアルさんが仮眠をとっていた付近に戻ろうとする。

「…バアルさん何かあったのかな」
「今頃すっごーく焦ってるかも!」
「さ、サテュロスちゃん?」

 独り言で呟いたはずが返答が来てびっくりする。背後にはサテュロスちゃんがいて、私とハンニバルさんを見てにまにまと締まりのない顔をしていた。

「ハンニバルはね、バアルくんがつくりだした存在なんだよ!だからハンニバルにしたことはバアルくんに伝わっちゃうんだ〜」
「……え?」
「ふふふ、ナマエちゃんってばハンニバルに何かしちゃった?」

 私がハンニバルさんと一緒に居ることが珍しいからサテュロスちゃんはそんなことを推測したのだろう。いや、まあ。何か、と言いますか。というかそんな情報初耳なんだけども。羞恥心がじわじわくるのを感じながら抱きしめているハンニバルさんに視線を落とす。ハンニバルさんは動じることなく私の腕の中にいるままだ。
 おそるおそる戻って本棚の影から先ほどバアルさんが寝ていたところを見てみる。案の定落ちた音はバアルさんが椅子からずれ落ちた音のようで、地面に片膝をついて胡坐をかいた状態のバアルさんが額を抑えていた。

「…っ!ナマエ!お前っ!」
「し、知らなかったから!不可抗力!だってハンニバルさん可愛いんだもん!つい!」

 私の視線にすぐ気づいたバアルさんがきっと私をひと睨みする。慌ててその場から逃げ出すと同時にハンニバルさんがふわりと自由気ままに地面に降り立ってバアルさんの元へと戻っていく。

「やーん!かわいい!ナマエちゃんもバアルくんも顔真っ赤!」
「うるさい!」

 しばらくの間は恥ずかしくてお互い直視できなかったのは言うまでもなかった。