「随分とアップテンポだな」

 とある島で行われている即売会、というものに顔を出してみた。ナタクさん曰くいろいろな本を売買できるお祭りらしい。本に興味があるなら行ってみるといい、と薦めてくれたので私はバアルさんに少し我儘を言って連れてきてもらっていた。
 本を買い終えた私に対してバアルさんがお得意の言い回しをしてくる。勿論意味なんてわからないため私はそのまま言われた言葉を復唱することになる。

「…バアルさん時々難しい言葉を使いますよね。どういう意味ですか?」
「元気がある、といったところだ」

 本を買い終え、バアルさんも用事がないならとった宿に戻ろうと提案をしたところ、バアルさんがそんな風に返してきた。そこまで表情や行動に出てしまっていただろうか。確かに初めて気になる本を買った、という体験が楽しかったので機嫌がいいのは違いない。

「えへへ、最近読書をするのが好きなんです。だから買えたのが嬉しくて」
「そうか。同志が増えたならナタクも喜ぶんじゃないか」

 同志と言えば同志なのかもしれないがナタクさんがよく好んで読んでいるのは兵法書とかそういうものばかりだ。私は人が書いた物語や言い伝えなどが書かれた本が好きなので実は合っているようで合っていなかったりする。どれも本は難しそうで数ページ読んだら眠くなりそうなものだったのは誰にも言えない秘密である。

「あともうひとつ好きなことあるんですよ!バアルさんの楽器演奏を聴くこと、です!」
「…そうか」
「この前聴かせてくれた曲、すごくかっこよくていつも以上にドキドキしました!ええと、こういう時なんて言うんでしたっけ…あん、あんぷ…?」
増幅アンプリファイ、だ」
「そうそう!それです!」

 時々バアルさんは人々に混じって楽器の演奏…えっと、セッション?をして楽しんでいる。バアルさんが人が多くいる街にきてやることのひとつだ。その時は一人で行動するのもと思いだいたいバアルさんにくっついていって音楽をいろいろ聴かせてもらっているのだが、聴けば聴くほどバアルさんの音楽に引き込まれているような気がする。音楽のセンスとかそういうものはないのだけれど、そんな私でもこんなにドキドキするのだからバアルさんの音楽はすごいものなのだろう。
 私の言葉にバアルさんはまた「そうか、」と一言を返す。何時もそうやって返すことが多いけれど今日のそれはいつもより声が少し高い気がした。

「暮らしていた島での生活ものんびりしていてよかったけど、今のほうがいろんなことを知ったり体験できてずっと楽しいです」
「思っているよりも人々は刺激をくれる…悪くない生活だろう」
「人、というかバアルさん?というか…」

 私の言葉にバアルさんはきょとん、としていた。なんだか珍しい顔だ。別に可笑しなことを言ったつもりはなかったのだが。

「バアルさんとこうして一緒に居なかったらこんなに楽しく毎日過ごせてないと思うんですよね。改めてありがとうございます」
「…ふん、どうしたんだ。俺をおだてても何もでないぞ」

 驚いた表情からバアルさんは少しだけむっとした表情に変わる。そう言う風に聞こえてしまったのか。私はまだ気持ちを伝えるのがヘタクソだ。もう少し他の人達みたいに語彙力があれば良いのだろうけど、なかなか難しい。もっと本で勉強しなくては。

「ちゃんとお礼を言ったことなかったので、言ってみようと思っただけです」
「…ナマエ」
「は、はい」

 だいたいおい、とかお前、とか呼ばれることが多いので改めて名前を呼ばれると少し緊張する。上ずった声で返事をするとバアルさんは一息置いて言葉を続けた。

「ならば俺も一つ言っておく」
「…?」
「お前との合奏アンサンブルは悪くない、と思っている」

 アンサンブル、という意味はどういう意味だったか。前にバアルさんが言っていたような気がする。一緒に演奏すること?みたいなそんな意味だったか。それをバアルさんが言いたいことに言い換えてみるとすると、そこまで頑張って考えてみると己惚れてしまう答えが導き出される。

「…本当、ですか?」
「二度は言わない」
「…ふふ、はい。ありがとうございます。嬉しいです」

 一緒にいるようになって結構な月日は経ったけれどお互いがこうして言い合うのはあの日以来な気がする。また一つバアルさんの気持ちを知れた私は心があったかくなる感じがうまれた。初めての感覚に少しだけ戸惑いを感じたけれど、全然悪い感じはしなかった。