西の都に行く時はいつもより少しだけおしゃれを意識した服装をする。
なんとなく行なっている習慣で深い意味はない。都会に行くのだからそれなりな格好をしないといけないのではないかという、この世界にやってくる以前からある癖のようなものだ。
人通りの多い都会の中でも目立つオブジェがある駅前を待ち合わせ場所に指定されたが、電車の通ってないようなド田舎から向かうのだから公共機関は使えない。いつものように郊外までは空を飛んで、そこからは走って移動になる。
都に近い場所に住んでいるのだからオレがそっちに迎えに行くほうが楽じゃないか、とターレスに聞けば「待ち合わせをする方が“らしい”だろう?」と笑って却下された。
なにが"らしい"のかはさっぱりわからないが、普段からなにかと意味深な物言いをする奴なので普通に待ち合わせして遊んでみたいとか、そんな感じなんだろう。
いつの間にか地球に住み着いていたターレスは、そのルックスと小規模ながら軍団を率いていたカリスマを発揮してホストをやっている。
西の都の歓楽街で女性に一夜の夢を見せていたら夜の帝王などという、ご立派な肩書きを持つようになっていた。
オレにとっては気障ったらしく見える言動が、世間では受けるらしい。自分が死んだ星で生きるのはトラウマとか、そういうのがあったりしないのかと思ったが、長い間根無し草をしていたせいか1つの場所に腰を降ろして生活するのは結構楽しいのだと笑っていた。
外見の良さと社交性を備えているイケメンは夜の街でなくてもモテるらしい。
待ち合わせ場所に着いたら相手が逆ナンされていた場合どう対処するのが正解なんだろう。
ターレスに話しかけている女性達以外にも遠巻きに見て何か話している人がちらほらいる。こんな中にノコノコ出ていけるほど図太い神経でもないので、どこか喫茶店にでも入って適当に時間を潰そうかな。
鏡にはあまり馴染みのない服を持て余すように裾をつまんで戸惑った顔をする自分が映っている。
先ほどまで空間を隔てていたカーテンを開いて俺をここに押し込んだ男は鏡越しにニヤリと満足そうに笑った。
「似合うじゃねえか」
「馬子にも衣裳ってやつ?」
「心からの言葉さ」
買い物がしたいと言うから都まで出てきたというのに、先ほどから着せ替え人形よろしく何着も服をとっかえひっかえさせられて精神的な疲れがすごい。それもそこいらの量販店ではなく、ブランドの看板が掲げられた店だ。普段の自分なら敷居も値段も高いからと素通りするような場所で、値札のついていない服を身に着けるなんて全く想像もしてなかった。