獰猛なダニのような生物と巨大な獣が住まう、砂埃が吹き荒れる乾いた惑星。人間が生活するには不向きな水分さえない尋常ならざる世界の片隅、洞窟の奥ではそんな環境と不釣り合いな香辛料と肉の焼ける匂いが漂っていた。
「できたぞー」
ナマエがじゅうじゅうと音を立てる中華鍋を振るいながら間延びした声でそう言うと、ブロリーが近づいてくる。両手で大切そうに持った真っ白な大皿を差し出すと炒飯がこんもり盛られた。湯気の立つ食事と食欲をそそる香り。ぱぁ、と表情を明るくする男をナマエは微笑ましげに見つめていた。
何か手伝いたいと申し出てくれたものの、未だ力加減が苦手なこの男は意図せず調理器具を破壊してしまうため配膳係を任されている。大柄な体格に反して幼い子供なような邪気のない言動にナマエの中にある庇護欲がくすぐられて仕方ない。力ではブロリーの方が圧倒的に強いので庇護も何もないのだが。
普段、食事はどちらかというと質より量というタイプの弟たちを相手にしているせいか「美味しい」と新鮮に驚き喜んでくれると嬉しいというのもある。可愛くてしょうがない。
「冷めるから先に食べてていいぞ」
「んん、待ってる」
「そんじゃ、あとちょっとでできるから皆を呼んできてくれるか?」
「わかった」
青年からささやかなおつかいを頼まれたブロリーは小さく頷いて、間違っても落としたり、割ったりしないように慎重に皿を運んでテーブルに置くと洞窟の外に向かって飛び立った。
ーーー
「んー!今日の飯も美味い!」
「前のとはまた違った味付けだな」
「これは中華ってジャンルの料理だ。こないだのは和食。あとでレシピ書いとくから」
「いつも悪いな」
ドーム状の家の円卓テーブルには汁物から蒸し料理まで様々な食事が所狭しと並べられ、各々が皿に取り分けて食べ進めている。
食料はカプセルでいくらでも運び込めるが、ナマエがバンパにいない間は料理ができる人間がいないため、フリーザ軍でたまに調理も担当していたというレモにレシピを渡すのが恒例になっていた。悟空に連れられてはじめてバンパを訪れた時は、敵として戦った孫悟空の身内ということもあって警戒されていたが、ナマエのお人好しの甘ちゃんと評される性格もあり3人の胃袋を掴んでからは一緒に食事をするまでになっている。
大皿に盛られた炒飯を掻きこんでいたブロリーの顔にご飯粒がついていることに気付いたナマエが指先でちょいと摘み取ると、ブロリーが恥ずかしそうに身じろきした。おかわりいるか?と聞かれ、ブロリーが頷くとナマエが席を立つ。たんとお食べ、と山盛りに盛られた皿を受け取って、ぎこちなくお礼を言って食べ進める様子に頬杖を付いたナマエの表情はどこまでも穏やかで。
あのクソ親父より、こいつの方がよっぽど親らしいよな。
デザートのマンゴープリンを口に運びながらチライはぼんやり考える。
もしもこの男がこの惑星に住んでくれれば、毎日美味い飯が食えて、化け物からも守ってもらえるだろう。ブロリーも強いが、フリーザ軍を裏切った今の状況では戦力はいくらあっても足りない。ダニのような生物の足を食べるような劣悪な環境は、孫悟空が持ってきた文明の利器によって大いに改善されたが、人は欲深い生き物だ。
「なあ、このままここで暮らさないか?ブロリーも懐いてるし、あんたがいるとあたしらも助かるんだけど」
「んー……そうだなあ」
箸を下ろして少し考えるナマエに、ブロリーはそわそわと落ち着かない様子だ。
彼がナマエを好ましく思っているのはチライとレモもよく知っている。それが兄や父のように慕う親愛なのか、別のものなのかは、おそらく本人にもわからないだろう。40年近く父親と二人で生きてきた男が外の世界に触れ、新しい気持ちを育てていくことは喜ばしいことなので正直どっちでもよかった。
答えを決めたのか、ナマエが口を開くのと同じくして、瞬間移動してきた孫悟空が現れた。間が悪いとがなるチライを不思議そうに流した悟空は「いいこと思いついたんだ!」と笑って、追われる身の3人を連れてあっという間に破壊神の住む星に居を移したため、結局ナマエの返事は聞けずじまいになっている。