ナマエはとにかく疲れていた。
任務中にトラブルが頻発し、それら全てに対処してどうにか帰宅したが、家の鍵穴にスーパーのポイントカードを当てて開かぬ扉に舌打ちするくらいには頭が回っていなかった。
幸いにも翌日が休みだったので、飛びそうになる意識に鞭打って埃まみれの体をシャワーで洗い流す。腹は減っていたが、夕食を食べるための手間を考えると、空腹より面倒くさいに天秤が傾く。
もう飯抜きでいいや。
シャンプーしながらそう結論を出したナマエは、濡れた髪をタオルで雑に拭いながら、同居人に食事は適当に済ませてくれと告げてさっさと寝室に引っ込んだ。
レトルトやインスタントはあるし、足りなければ出前でも頼むだろう。報告書もなにもかも全部明日にしようと考えている間に寝落ちしていた。
「あとは好きにしてくれ」
頭からタオルを被った恋人が唐突に放った言葉にバーダックの思考は停止した。
は?なにを?誰を?
主語が抜けた言葉の意味を確認しようと寝室まで向かえば渦中の男は既に夢の中だった。夏でも律儀にTシャツを着ている男が、今はタンクトップと下着を身に付けただけの姿で寝息を立てている。ボクサーパンツから伸びる足や、裾が捲れたタンクトップや肩紐から覗く腰や鎖骨がやけに色っぽく見える。
まさかそういうお誘いか……?
下世話な考えが浮かぶ。向こうからアプローチされることなど滅多にないのでそういうことなら遠慮なくいただきたいところだが、理性がおそらく違うだろうと警鐘を鳴らした。
随分と疲れていたように見えた。髪を乾かすことも忘れて眠ってしまうくらいなのだから、限界だったのだろう。そんな状態の恋人に無体を働くほど落ちたつもりはない。何より意識のない相手に手を出しても反応がないのだから面白みがない。
そう、思うのだが。
男を囲うように乗り上げると2人分の重みでスプリングが軋む。眠りが深いのか全く起きる気配がない。鼻の頭が触れ合うくらい顔を近づけようが、だらしなく開いた唇を塞ごうが眉ひとつ動かさない。これならば、いっそ肉棒で貫こうが奥までぶち込んで出そうがバレないかもしれない。
ぐ、と喉が鳴る。
気の抜けた寝顔にぶっかけてやりたい。舌が覗く口に下生えを押し込んで扱きたい。
ぐらぐらと揺れる理性と本能の決戦は理性の辛勝で幕引きとなった。
ベッドの隅に追いやられていたタオルケットを引き寄せて眠る恋人の体にかけてやる。
「……アホ面」
うっすらと隈ができた目元を指の背でなぞったバーダックは、深く重いため息を吐いて寝室を後にした。
※翌日の会話
「昨日はごめんな〜。もう死ぬほど眠くてなんもできんかったわ。何か食いたいもんある?」
「お前」
「あ、そういうのいいから」