眠気覚まし

 狭い見張り台の中。毛布で包んだ体を震わせて、油断すると落ちてくる瞼を引き上げる。
海軍の船が視界に入らないか、海王類が近づいていないか。万が一異変に気付かなければ自分や仲間の命が危険に晒されてしまう。この船を守るためにも神経を尖らせていなければ、などと頭の中でそれらしいことを並べているが、要は気を抜くと眠ってしまいそうなのだ。持ち込んだ本は読み終えてしまったし。普段はやかましいくらい賑やかな船長や狙撃手は部屋でぐっすり夢の中。何事もないことが一番なんだが、ああ、暇だ。

 停泊した島で、いつものように船長が騒ぎを起こして海兵に見つかって、急いで出港して海軍を撒いて。夜は充分買い込んだ食料で久々の宴。それはそれは大いに盛り上がった。船番のオレは飲まなかったが、疲労と満腹感とでとにかく眠い。コーヒーでも飲めば少しは目を醒めるかもしれないが、見張りが持ち場を離れるなんてもってのほかだ。右手の甲を左手の親指と人差し指でキツく捻ったら痛みで目が冴えた気がする。ほんのちょっと、気休め程度に。

「よう、起きてるか」

 とろとろと落ちてくる瞼と格闘していると、湯気の立つマグカップが目の前に現れた。持ち手から伸びる腕をたどるとランタンの明かりを反射した淡く輝く金髪と特徴的な眉の優男がいる。

「ありがと。たすかる」
「顔が寝てんぞ」
「……ねむいからな」

 ふぁ、と噛み殺しきれなかったあくびを一つ。マグカップを唇に押し付ければ程よい苦みと温かさが沁みた。

「まだ起きてたんだな」
「明日の仕込みだ」
「そりゃ、お疲れさん。今日の飯も美味かった」
「当然だろ」

 自分の分のマグを手に、海を眺めるサンジの横顔は長い前髪に隠れてわからない。
被っていた毛布を広げて入るかと聞けば「男と包まるくらいなら凍えた方がマシだ」と断られた。
 さもありなん。これでオレが女だったら体全部で喜びをあらわにしたのかもしれないが、男相手には塩というか、わりと雑な対応だ。まあメロメロされても困るのだが。

「いやぁ、サンジが仲間になってくれてマジで助かった」
「……お前の飯も美味いだろ」
「店の看板に泥を塗るわけにはいかんから、多少はな。でも酒のアテになるようなのが多かったし栄養面は詳しくなくて、参ってたんだよ。この船には船医もいねぇし」

 この世界に調理師免許なんてものは無い。少なくとも、あの村の周辺に料理学校なんてものはなかった。マキノさんに教わった事と本から得た知識でどうにかやってきたが、付け焼き刃の自覚はあったのだ。
サンジが仲間になってからこの船の食事は大きく改善された。これまでは主にオレと、たまにナミやウソップが料理を担当していたが、酒場の店員と比べればやはり本業のコックさんには遠く及ばない。備蓄が許す限り味も栄養も最高のものが提供されるのは本当にありがたい限りだ。おかげさまでオレは晴れてお役御免である。今後できる事といえば雑用か肉壁くらいだろうか。いっそグランドラインに入る前に船を降りてもいいかもしれない。商船を乗り継げばフーシャ村に帰れるだろう。
 つらつらと考えを巡らせながらコーヒーを飲み干すと、伸びてきた手にマグが回収されていった。

「明日の朝飯も楽しみにしてる」
「へいへい。そんじゃ、無事に朝日を拝めるようにしっかり見張ってくれよ」
「りょーかい」

 トレーにマグを2つ乗せて器用にハシゴに足をかけたサンジはするすると甲板に降りていった。

 カフェインも入れたし、喋ったおかげで眠気も飛んでいった。夜明けまでまだ遠いが、美味い朝飯のためにも頑張りますかね。