バルトロメオ達のこだわりとファン心にあふれた奇抜な船に揺られ、辿りついたのは巨大なゾウ。
海を歩き天を衝く巨大な生物を前に思い思いの反応をする仲間たちから一歩下がってゆるりと目を細めた。
前に来た時から20年以上経つはずだけど、変わらないな。永い時間を生きるゾウにとって数十年など瞬きのような時間なのかもしれない。そういえば、初めて見た時は体が強張ってしまってシャンクスにからかわれたっけ。バギーは「情けねぇな」って小馬鹿にするくせに自分も足を小鹿みたいにぷるぷるさせて。ロジャーさんは子どものように目を輝かせていたな。
ロードポーネグリフを求め訪れた在りし日を思い起こせば、自然と口元が緩んだ。
麦わらの一味との別れを惜しみ、声援を送るバルトクラブの声がする。野太い声をBGMにどうやって上陸するか話し合う仲間たちに倣って、ひとまず彼らの事はスルーすることにした。あの人たちにどう接して良いのかわからなかったというのもある。
オレが麦わらに所属していると知ってから、バルトクラブのオレに対する接し方が180°変わったことには結局慣れることはなかった。オレ自身はたいした成果も上げていないし、実力があるわけでもないのに、肩書きだけで態度を変えられるとどうにも居た堪れない。悪気がないのがまた困る。
どんな経緯で仲間になったのか、とインタビューめいた質問攻めにあい、サインを求められ、尊敬のこもった眼差しがずっと刺さる、なんとも落ち着かない船旅だった。これなら外野として扱われてたほうが気楽だったかもしれない。というか、このメンツであの有様ならクルー全員が揃ったらあの人たちどうなるんだろうか。派手な船を見送ってそんな事を思った。
船尾にあしらわれたチョッパーっぽい顔と目が合う。しかし、あのデザイン、本人が見たらどんな反応をするだろう。
さて、海を歩く巨象にどうやって上陸するかと思えば、カン十郎が描き出した絵の背中に乗り、よじ登ることになったらしい。
絵から出てきたゆるキャラのような見た目に愛らしさを感じながらも、垂直に伸びる壁のようなゾウの足を登れるのかと一抹の不安を抱きながら桃色の背に足をかけて数時間。嫌な予感は当たっていた。
りゅーが足を踏み外して滑り落ちたり、空から降ってきた小猿を避けたり、うっかり落ちたルフィのせいでりゅーのすけが反り返ってしまったりとハプニング続きで座っているだけなのに疲労感がすごい。
「……おい、しがみつくな」
「いやごめん本当ごめん無理こわい」
不満げなローに申し訳ないと思いながら、その服の裾を掴む手を離せずにいる。抱き着かないだけマシだと許してほしい。高所恐怖症ではないが、さすがに限度があるだろう。命綱もなしでこの不安定な状況は怖すぎる。
かつて、空島に向かう最中、上昇する船から落ちそうになったこともあり、垂直に登ることが少しトラウマなのだ。湿気で手が滑ったり、加速によるGで後ろに引っ張られることがない分あの時よりは安全なんだと思いたい。……いや、どっちにしろ落ちたら海に叩きつけられて死ぬから同じか。
泣きはしないものの現状に耐えるだけで精一杯な情けないオレに後ろからフランキーが声をかけてくれた。
「あと少しだ。落ちんなよ」
「がんばるから早く登ってくれ……!」
今ほど後方のサイボーグが頼もしく思えたことはないだろう。体がデカいからもしオレが転げ落ちそうになったら捕まえてほしい。それかローにシャンブルズしてほしい。そんな魂胆でこの順番で座ったまである。
少し前に最後尾の侍がアホな事をして落ちていったので、ああはなるまいと背ヒレを跨ぐ足に力を込めた。なんでこの状況で目隠し遊びができるんですかね。落ちたならついでに危機感も拾ってきてほしいところである。
その後もりゅーのすけが体勢を崩すたび前に座るローの背中にしがみついたり、落ちそうになったところをフランキーに支えてもらったりと助けられながらどうにか頂上まで死なずに辿り着けた。2人には感謝しかない。生きた心地がしなかった。
――これ降りる時はどうするんだろう。
……空島……うっ、頭が……。
***
傷を負ったゾウの足を治療するため、材木の調達を任されたゾロたち剣士組の中に何故かオレも加えられてしまった。
多少剣の心得があるからということらしいが、正直期待されてるほどの働きができるか微妙なところである。ともあれ森へと繰り出した矢先、一歩目から皆と反対の方向に進んでいくゾロがいた。
……でしょうね。うん、そうなると思った。
気付いているのかいないのか、木々の間に消えていくブルックや錦えもん、ミンク族たちとゾロを交互に見てため息を吐く。迷彩効果で見失う前に緑頭を追いかける事にした。木を切っても運ぶ奴がいないとどうしようもないだろうがよ。
気配は追えていたので歩いて向かえば、既に切り出した角材の前にゾロが立っている。自分の他に誰もいない事にやっと気付いたのか、周囲を見回す様子に呆れながら声をかけようとすると、それより先にゾロに近づく人物がいた。
「お前もしかして、とてつもない方向音痴なのか?」
「ぐ……!」
図星を突くローに言い返せないゾロの前に、ワーニーに乗ったキャロットとルフィが現れ揶揄われている。あいつ1人だとまた勝手に動き回る可能性があるが、ローに見ててもらえるなら今のうちに応援を呼んだ方がよさそうだ。
うーんなんだろう、この目を離せない子どもの育児感。
「おーい迷子剣士〜。そこの角材運ぶのにミンク族の人たち呼んでくるから、絶対そこ動くなよ」
「うるせェ!お前まで同調すんな!これくらいおれ1人で運んでやる!」
逆ギレするゾロに対して「時間の無駄だ」とバッサリ切ったローが右の手のひらを上に向けるとゾロの姿が材木と一緒に消える。剣士のいた場所には入れ替わった小石が落ちていた。
「おお、便利」
「えぇ?!消えた……!」
突然人が消えた事に驚いていたキャロットだったが、少しするとナミ達の様子を見にいくと言ってルフィと共に去っていった。ワーニーの背中で楽しそうに笑うルフィに手を振ってフランキー達の元に戻るべく踵を返せば、何故かローもついてくる。出航の前に少し船の整備をするらしい。材料の調達のために立ち寄ったのだとか。
「ナマエ」
「なに?」
草を踏み締める足音と柔らかな風に揺れる枝葉が擦れる音の中、不意にローに名前を呼ばれた。隣に顔を向けると煤色の瞳がこちらを見ている。視線を合わせれば、相手は帽子の鍔を下げ表情が見えなくなった。
ややあって、またローが口を開く。
「……ゾロ屋はいつもああなのか?」
「え、ああ、そうだな。大陸とか広い街だと見つけるのが大変でさぁ。どうにかしようにも、本人が無自覚な上に好き勝手に動き回るもんで、この様だ」
「……苦労してるな」
「はは、わかってくれるか」
あの迷子癖も愛嬌と思えば可愛いと思えなくも……なくないか。やっぱ少しは自重してほしい。
取り止めのないことをぽつぽつと話しながら歩いていれば、船の保管場所に着く前にローは別の方向に歩き去って行った。